2020年6月1日にパワハラ防止法が施行されるなど、ハラスメントをなくそうとする取り組みが進む日本。しかし、精神障害の労災認定件数は年間800件を超え、5年連続で過去最高を更新しつつあり「職場いじめ」は増加、深刻化が進んでいます。実例を通して、近年の「職場いじめ」の特徴をみていきましょう。ハラスメント対策専門家である坂倉昇平氏の著書『大人のいじめ』(講談社)より紹介します。
「手伝わないようにと言われました」30代フリーター男性、同僚からの“嫌がらせ”でうつ病を発症…職場いじめを主導した“まさかの人物”【専門家が解説】
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ある日突然「標的」に…いじめの首謀者は“まさかの人物”
筆者が受けた最近の労働相談から、「後輩」によるいじめも紹介しておこう。30代のいわゆる「中年フリーター」の男性に対する職場いじめだ。
男性は娯楽施設内のポップコーンやドリンクなどを販売する売店で働いており、時給はほぼ最低賃金でシフト制だが、週に5日出勤し、勤続は10年以上に及んでいた。
ふだん売店には、学生と20代のフリーター合わせて10人ほどが働いている。男性は最年長であり、勤続年数でいっても全員の先輩にあたる。それが突然、いじめの標的となってしまったのだ。
レジ打ちをしていると、気づくと周りに誰もいない。同僚全員が、男性を一人残して、厨房に引き上げてしまったからだ。逆に男性が厨房に向かうと、同僚たちはさーっとレジに集まっていく。さながら、サッカーのオフサイドトラップである。これが毎日、何ヵ月も続いた。精神的苦痛に加え、レジ打ちにせよ調理にせよ、業務を一人でやらなければならず、負担も大きかった。
学生たちをけしかけ、いじめのリーダー格になっていたのは、後輩のあるフリーターだった。すれ違いざまにわざと肩をぶつけられたり、仕事の情報を回してもらえなかったり、全体の飲み会にも自分だけ誘われなかった。
「どうしてそういう態度をするの?」と思い切って聞いても、無視されるだけだった。特に恨まれるようなことをした記憶はなく、因縁をつけるとしたら「30代になってもフリーターの男性」であることくらいしか思いつかなかった。
一部の学生アルバイトは、「手伝わないようにと言われました」と申し訳なさそうに打ち明け、周りの目を盗んで業務に手を貸してくれた。
男性は会社に相談し、主犯格の後輩フリーターとの話し合いを求めた。しかし、話し合いは相手から拒否され、「無視ではなく、興味がないだけ」という回答があったと会社から説明があった。会社はそれ以上何も対応してくれなかった。
男性はうつ病を発症し、長期間休職せざるを得なくなった。現在は復職し、出勤シフトを減らして働いている。いじめはなくなったが、上司はうつから復職した彼にわざわざ「研修中」のバッジを着用させ、「トラブルを起こす厄介者」として、退職に追い込もうとしている。