定年後のシニアの生活の要となる「年金」。受給できると想定していた年金額に突如狂いが生じる場合の要因として、「配偶者の死」が挙げられます。今回は、長年共働きで生計を立ててきた夫婦に起こりがちな遺族年金の落とし穴について、ファイナンシャルプランナーの辻本剛士氏が事例をもとに解説します。
これじゃあ暮らしていけない…夫婦の年金月30万円で〈余裕の老後〉が一転。夫の死後に知る〈遺族年金額〉に絶望も、遺品整理で見つけた古いアルバムに挟まれた「真新しい封筒」の中身に66歳妻、再び号泣【CFPが解説】
いつも通りランニングに出かけた夫に異変が…
そんなある日のこと。彰さんは早朝から「いまから軽く走ってくるね!」と言い残しランニングで出かけました。しかし、いつもは1時間もすれば帰ってくるのに、その日は2時間を過ぎても帰ってきません。
佳子さんは嫌な予感がしました。直後に、自宅に一本の電話がなります。病院からの電話で、彰さんが心臓発作で倒れたとのことです。急いで駆け付けた佳子さんでしたが、彰さんはすでに還らぬ人となっていました。佳子さんは悲しみと混乱が一気に襲い、佳子さんは人目をはばからず声を上げて泣き叫びました。
年金事務所で遺族年金の支給額を聞き、絶望する佳子さん
その後、周りの援助もあり、無事に葬儀を済ませた佳子さん。彰さんを失った悲しみがまだ残っていますが、相続手続きなどの現実的な問題が待っており、悲しんでいる時間はありませんでした。息子たちは遠方に暮らしているため、数日しか実家に滞在できず、遺品整理などは佳子さんが少しずつ進めていくことになります。
それと並行して、遺族年金などの手続きも必要となります。佳子さんは早速、年金事務所に遺族年金について手続き方法などの確認にいきました。その際に遺族年金の給付額についても説明も受けたのですが、この内容に佳子さんは絶句します。
年金事務所で担当者に具体的な年金額を計算してもらったところ、佳子さんが今後受け取る年金額は、遺族年金と合わせて180万円(月15万円)であることが判明しました。これまで受け取ってきた年金の半分です。
佳子さんは「どうしてこんなに年金が下がるの⁉ これじゃあ暮らしていけない……」と驚きと不安で言葉を失いました。
遺族年金は支給停止の対象になる場合も
年金事務所の担当者が佳子さんに説明をし始めます。
彰さんが死亡した場合、65歳以降の妻への遺族厚生年金は「夫の老齢厚生年金の3/4」(ア)あるいは「夫の厚生年金の1/2と妻自身の老齢厚生年金の1/2の合計」(イ)、いずれか高いほうの金額で計算されます。
今回のケースでは、佳子さんの老齢厚生年金は95万円のため、以下のように計算されます。
(イ)52万5,000円(105万円÷2)+47万5,000円(95万円÷2)=100万円
(ア)と(イ)では、(イ)のほうが大きいため、佳子さんの遺族厚生年金は100万円となります。
しかし、この遺族厚生年金100万円から、佳子さんが受け取っている厚生年金額を差し引く仕組みがあります。美帆さんは遺族厚生年金100万円を受け取れるものの、自身の老齢厚生年金部分の95万円は支給停止となるのです。
結果として、佳子さんが実際に受け取れる年金額は、佳子さんの老齢基礎年金80万円+老齢厚生年金95万円+遺族厚生年金(100万円-95万円)=合計180万円となります。月に換算すると15万円となり、これまで毎月30万円だった年金が、彰さんが亡くなった後は半分まで減ってしまいます。
これまでの安定した生活が、突如として揺らぎ始めるのを感じ、佳子さんは頭が真っ白になりました。