(※写真はイメージです/PIXTA)

開院から約1年、受診患者が増加し、経営面も人事面も安定してきたあたりに、保険診療メインのクリニックなら必ず遭遇する「イベント」があります。それが、所属する地方厚生局によって保険診療の妥当性を評価する「新規個別指導」です。ここでは、新規個別指導の概要と、その対策について解説します。本連載は、コスモス薬品Webサイトからの転載記事です。

個別指導の分類

全国の病院や診療所は、各都道府県の厚生局による継続的な指導が行われます。そのうちの「個別指導」には、今回とりあげる「新規個別指導」のほか、上位4%の高点数の医療機関で実施される「集団的個別指導」、患者・保険者・行政機関からの情報提供により行われる「個別指導」があります。

 

個別指導は、架空・付増請求等の不正や著しい不正が疑われる場合に保険医療機関の指定の取り消しなど行政上の措置を目的として行われる「監査」とは別物なのですが、なかには混同されるドクターもいるようです。

 

新型コロナウイルス感染症の蔓延により、新規個別指導は中止されていましたが、2023年以降は、以前と同様のペースで再開されています。

新規個別指導前に実施される集団指導

各都道府県の厚生局に保険医療機関として指定されると、新規個別指導を受けるよりも前に、まずは「集団指導」を受けることになります。具体的には、開業から3~6ヵ月後に、厚生局から赤文字が記載された封筒が届きます。これが集団指導の通知となります。

 

従来は、指定された日時と場所に新規開業をした医療機関の管理者とスタッフが集められ、3時間程度の講義を受ける…といったかたちでしたが、新型コロナウイルス感染症の蔓延があって以降、自治体によってはオンラインでの講義配信・視聴確認によって認証することもあります。

 

このイベントは、基本的には避けられず、参加しない場合は新規個別指導が厳しくなる、あるいは監査対象となります。

集団指導から新規個別指導への流れ

新規個別指導は、都道府県により異なりますが、開業後9ヵ月~1年6ヵ月以内に実施されます。そのことを念頭に置き、普段の診療から十分な配慮をして準備を進めていく必要があります。

 

新規個別指導は、平日の午後に1時間ほどで実施されます。指導日のちょうど1ヵ月前、厚生局から、個別指導の実施通知が内容証明などで送られてきます。

 

この通知には、実施の日時・場所(多くは厚生局の会議室や県の医師会館ホール)と、持参すべきものが記載されています。主な持参物としては、指導対象として選定された患者の初診からの診療記録(2号用紙)とすべての検査所見(血液・心電図・レントゲンなど)、2ヵ月分の日計表と出納帳が含まれます。

 

新規個別指導の場合、対象となる患者は10例で、指導のちょうど1週間前の12時ジャストにFAXと郵送の2つでほぼ同時に通知されます。

新規個別指導当日の流れ

当日は管理者の院長はもちろんのこと、入出金やレセプトに詳しい医療事務職員2名の同行が必要となります。個別指導開始時刻の30分前に受付をすませ、開始時刻5分前に会議室へ通されます。

 

個別指導は懇談形式で実施されます。指導に先立ち、健康保険法の規定で新規個別指導を実施する旨を伝えられ、まずは管理者の院長のキャリア・診療科目の質問がされ、ここの心証が重要となります。

 

続いて、院内の電子カルテなどの診療記録の管理方法について問われます。退職した職員IDの欠番をしていないこと、パスワードの桁数と更新頻度(8桁で1ヵ月ごとか)、離席後の対応(パスワードの再入力を要する)、どのバージョンで管理しているかなどの一般的な質問が行われます。

 

その後、管理者の院長は選定された10症例に関して、厚生局の医系技官・事務員による質問を、医療事務職員は2ヵ月分の日計表と帳簿を他職員により確認され、適宜質問がされていきます。

 

とくに機能強化加算・特定疾患療養管理料・生活習慣病管理料・休日や時間外加算の算定、検査の点数が高い、電話再診料などは念入りに問われます。

 

ここで書類の不備があれば指導中断となります。

 

また指導終了時に簡単な講評が行われます。

新規個別指導の結果と措置の通達

新規個別指導から約1ヵ月後、個別指導の結果が通知されます。結果区分は以下4つに分かれます。

 

●概ね妥当

●経過観察

●再指導

●要監査

 

このとき、「概ね妥当」の評価を受けるのは1割弱で、7割程度は「経過観察」となります。「再指導」は残り2割程度で、「要監査」となることは稀です。

 

指導結果通知後の対応ですが、「概ね妥当」であっても、指摘事項の「改善報告書」の記入が必要となります。また、経過観察であっても「返還金同意書」の提出と納付が必要となります。

 

この改善報告書・返還金同意書の送付や納金は1ヵ月程度を目安に設定されています。返還金の対象者の保険が国民健康保険か社会保険かによって様式は異なりますが、地方厚生局の「返還金同意書等作成支援ツール」を活用することをお勧めします。

 

多くの医療機関が判定される「経過観察」の場合、重点的に観察される期間としては、指導後の6~12ヵ月ほどで、その期間は指摘された内容のレセプトのチェックが細かく行われ、返戻・減点・査定が多くなる傾向があります。とはいえ、再指導・監査へと移行するケースはまれです。

 

「再指導」の場合は6~12ヵ月後に指導が実施されます。

新規個別指導での留意点

ここからは、新規個別指導で指摘され、指導・診療報酬の返還となりやすい項目について解説していきます。

 

●診療録における診療内容等の記載が乏しい
→ 身体所見、検査所見の他、評価・治療方針の明確な流れが必要となります。

 

●傷病名が不十分である
→ 「慢性」「急性」の区別、「左」「右」「両側」まで求められます。

 

●傷病名に症状を記載しない

 

●診療時間と曜日・担当となる医師の変更事項が未提出である
→ とくに時間外・休日などでは地域連携小児休日夜間診療料、院内トリアージ実施料を算定する場合では要注意です。

 

●電子カルテのパスワード設定、セキュリティ管理が不十分である

 

●算定要件を満たしていない特掲診療料の診療報酬の請求がある

 

●診療記録に加算要件の内容の記載がない、または不十分である
→ 「特定疾患療養管理料」であれば運動・栄養・服薬など2行程度の記載が必要です。画一的な内容では不可とされます。また、「生活習慣病管理料」であればその同意が必要となります。

 

●在宅医療の場合、訪問診療では訪問時間・計画書・同意書、往診では、誰からどの理由で応需したか(メールやSNSは不可)などの詳細記載がない

 

●電話再診と同日再診の妥当性
→ 自宅帰宅後の症状の変化、指導内容の詳記を要します。

 

●自家診療
→職員の診療を実施した場合も、自己負担額を徴収しなければ違反となります。給与支給時に福利厚生として調整してください。

 

とくに、以下のような項目があると監査移行となるため、絶対に行わないようにしてください。

 

●架空請求
→ 診療を実施せず保険請求・請求書を発行した場合

 

●二重請求・混合診療
→ 自費診療と保険診療を二重請求する、自費診療・保険診療の混在

 

付増請求
→ 診療回数・日数などを実際よりも多く請求する

 

●振替請求
→ 保険診療内容を高い保険点数が算定できる診療内容に振り替えて請求

 

新規個別指導は避けることはできません。開業当初から電子カルテなどのシステムで、診療報酬の請求内容・金額の確認、経理・事務処理の確認、レセプトの照合などを徹底してください。

 

 

武井 智昭
株式会社TTコンサルティング 医師