(※写真はイメージです/PIXTA)

クリニックを開業し、経営が軌道に乗ると、このまま個人事業として続けるか、それとも「法人成り」を目指すかという選択を迫られます。医療法人化は、節税をはじめさまざまなメリットがありますが、手続きやタイミングの見極めが難しいことも事実です。具体的にどのようなメリットがあり、いつがベストなタイミングなのか、医療法人化について開業医の視点から着目してみましょう。本連載は、コスモス薬品Webサイトからの転載記事です。

そもそも医療法人とは?設立の要件や種類を整理

医療法人とは、医療法で定められた特別法人のことで、個人経営のクリニックや病院が法人格を持つ形態を指します。

 

法人格を取得することで、経営の透明性や継続性が高まり、社会的信用も得られやすくなります。

 

◆設立の要件

医療法人は、原則として医療機関の運営を目的とする非営利法人でなければなりません。

 

設立にあたっては、所轄官庁(都道府県知事)の認可が必要で、そのための手続きには詳細な事業計画書や設立趣意書、定款などの提出が求められます。

 

要件のポイントとして、最低4名の人員(理事3名と監事1名)が不可欠です。ただし、法人運営の透明性を確保するために、親族は監事に就任できません。

 

また、一定の資本金や出資金も必要です。一般的には、数百万円から数千万円の範囲で設定されることが多く、この資金は医療機関としての運営に充てられます。

 

設立後も毎年の会計報告や事業報告を所轄官庁に提出する義務がありますが、これによって運営の透明性が保たれます。

 

◆医療法人の種類

医療法人には大きく分けて「医療法人社団」と「医療法人財団」の2種類があります。

 

医療法人社団は複数の個人が出資して設立されるのに対し、医療法人財団は特定の目的のために寄付された財産をもとに設立されます。

 

どちらも医療法に基づいて運営され、公共の利益に資する活動を行うことが求められます。

 

クリニック開業後に医療法人として「法人成り」を果たすことで、組織としての一体感や経営の安定性につながっていきます。

 

ただし、設立には時間とコストがかかるため、事前にしっかりと準備を行うことが肝要です。

医療法人化のメリットは経済面や事業に好影響

医療法人化には、経済的な利点や事業展開の柔軟性など、さまざまなメリットがあります。

以下に、その主なメリットを見ていきましょう。

 

◆給与所得控除が適用される

医療法人化すると、個人事業所得者だった院長は給与所得者となり、給与所得控除を受けられます。

 

給与所得控除は、給与から一定額を経費として差し引くことができる仕組みです。

この控除によって所得税負担が軽減され、実質的な手取り額が増えることが期待できます。

 

◆所得税と法人税の税率差による節税効果

個人事業の場合、所得税は累進課税制度が適用されるため、所得が増えるほど税率が高くなります。

 

たとえば、年間所得が1,800万円を超えると最高税率は45%(住民税などを含めると約55%)です。

 

一方、医療法人に成ると、法人税率は15〜23.2%にとどまり、個人事業よりも低い税率に転換します。この税率差は、事業を行う上で大きな節税効果をもたらすでしょう。

 

◆事業の幅が広がる

個人開業では認可されない分院の開設や介護領域など、新たな事業を展開しやすくなることも医療法人化のメリットです。

 

たとえば、異なる診療科を設立したり、在宅医療専門の施設を開設したりすることが可能です。法人格を持つことで、金融機関からの融資が受けやすくなり、新規の設備投資も容易に運ぶでしょう。

 

事業の幅が広がることは、地域医療の充実や患者サービスの向上につながります。

 

◆事業承継がスムーズ

現院長が個人医院を若手に引き継ぐことになった場合、医療法人化しておくことで事業承継がスムーズに行えます。

 

個人事業での承継手続きは複雑ですが、法人の場合は後継者を総会で選任し、新たな院長の変更手続きだけで医院を承継することが可能です。

 

後継者への引き継ぎが円滑に行われることで、持続可能な医院の将来を見据えることができます。

 

◆社会的信用の向上

法人としての組織運営は、定期的な会計監査や報告義務があるため、個人経営に比べて透明性が高いことが特徴です。

 

医療法人化によって、公明で健全な医院の姿を示すことで、患者様や取引先、金融機関からの信頼が高まり、社会的信用も増すでしょう。

医療法人化を目指すなら4つのタイミングがおすすめ

医療法人化を目指す際には、タイミングが重要です。ここでは、特におすすめの4つのタイミングを紹介します。

 

◆年間所得が1,800万円を超えそうなとき

個人事業主としての所得が1,800万円を超える場合、前述のとおり税負担が大きくなります。

 

このタイミングで医療法人に移行することで、法人税率の適用を受け、全体の税負担を軽減することができます。

 

法人化により、個人所得に対する高い税率を回避し、税務上のメリットを享受することが可能です。

 

◆社会保険診療報酬が5,000万円を上回りそうなとき

年間の社会保険診療報酬が5,000万円を上回りそうな場合も、医療法人化を検討するタイミングです。

 

5,000万円以下の場合は、事業運営に必要な費用を経費として計上できる「概算経費」という特例が適用されます。

 

しかし、5,000万円を上回るとこの特例が適用されなくなるため、税金額が大幅に増える可能性があるのです。

 

税金をできるだけ抑えるためにも、このタイミングで医療法人化を目指しましょう。

 

◆開業から7年目を迎える前

医療法人化は、開業から7年目を迎える前もおすすめのタイミングです。なぜなら、開業時に導入した医療機器の償却期間が6年目までと定められているからです。

 

7年目以降は減価償却ができなくなり、医療機器の価値が利益として計上され、税負担が増加します。

 

特に高額の医療機器を多数導入している場合、償却期間内に法人化することで、税負担を軽減することが可能です。

 

◆事業の拡大や承継を考えはじめたとき

事業拡大や承継を考えはじめたときも、医療法人化のタイミングとなります。

 

前述のとおり、個人事業主では事業の範囲が限られていますが、医療法人化することで分院の開設や多角化が可能となります。

 

事業承継においても、個人事業主よりも医療法人のほうが手続きを円滑に進められます。医療法人化すると、持分なしの医療法人として相続税がかからないため、承継に着手するタイミングが有益です。

 

◆タイミングは年2回、手続きに不備があると法人化に失敗する可能性も

医療法人化の手続きには、年に2回の申請期間が設けられています。このタイミングに合わせて申請を行うことで、スムーズな法人化が期待できます。

 

ただし、手続きには多くの書類が必要で、内容に不備があると法人化が認可されない可能性もあります。特に、事業計画書や定款、設立趣意書などの書類は詳細かつ正確に作成することが大事です。申請の際には、所轄官庁と綿密に連絡を取り、必要書類を漏れなく提出するように留意しましょう。

 

また、申請期間中は多くの医療機関が法人化を目指しているため、早めに準備を始めることが賢明です。

 

そのためには、税理士やFPなど専門家のサポートを受けることも有用な方法です。

医療法人のメリットを活用するときこそが「法人成り」を目指すタイミング

医療法人化のメリットには、給与所得控除の適用や税率差による節税効果、事業拡大のしやすさ、事業承継の円滑化、社会的信用の向上などがあります。

 

つまり、これらのメリットを有効に活用するときこそが、「法人成り」を目指す適切なタイミングと言えるでしょう。

 

医療法人化によって経営の透明性を高め、安定した事業として医療に取り組んでいるクリニックや医院は少なくありません。

 

周到な準備と計画をもって、確実な手続きを行うことで、スムーズな法人成りを実現しましょう。

 

 

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