国民年金保険料が納付期限までに納付されない場合、日本年金機構から納付督励が行われます。特に「赤い封筒」で送られた通告を無視していると、いよいよ大変なことになりかねません。実際の事例を元に、全国民に課される国民年金保険の納付義務について、角村FP社労士事務所の特定社会保険労務士・CFPの角村俊一氏が解説します。
「ていねいな老後」を送る年金月20万円"西荻夫婦”を襲った日本年金機構からの「赤い封筒」の中身。お金の管理が「ていねいじゃない」息子が引き起こした悲劇とは?【社労士が解説】
「ダメだ、逃げられない…」
先にみた通り、たび重なる納付督励に応じないと、強制徴収の実施に向けた動きが始まります。対象となるのは「控除後所得300万円以上かつ7月以上保険料を滞納している方」です。
強制徴収の実施は不公平感の解消と波及効果を狙ったもの。令和5年度において、最終催告状は176,779件、督促状は102,238件、財産差押は30,789件となっています(最終催告状、督促状、財産差押の件数は当該年度に着手した件数)。
ちなみに、「所得1,000万円以上かつ滞納月数13月以上」である場合には、悪質な滞納者に係る保険料の徴収が困難な事案として、国税庁へ強制徴収の委任が行われます。令和5年度には86件の委任が行われました。
Aさんは社労士から保険料未納者への対応や財産差押の話を聞き、「ダメだ、逃げられない……」と観念しました。
多趣味でやりたいことがたくさんあるAさんはFIREを目指し、数年前から財産のほとんどを日本株や信用取引につぎ込んでいたそうです。
最近は相場環境が良かったことから「年金なんて払わなくても俺の老後は大丈夫」と楽観的でしたが、8月の初めにブラックマンデーを超えるまさかの大暴落。大きな損失を抱えて年金保険料を払うお金がないといいます。話を聞いた両親は口あんぐり。なんと言っていいか分かりません。
とはいえ、このまま見過ごすわけにはいきません。世帯主は父親であり、息子の保険料の納付義務があるからです。財産の差押えなどとんでもありません。仕方なくカフェの準備資金の一部を息子の未納保険料に当てました。
父親はうなだれる息子に対し、「お前もこれからはていねいな暮らしを心がけろよ」と一言。息子は涙ながらに頷きました。
角村 俊一
角村FP社労士事務所代表・CFP