ピーク時は年収1,000万円を稼いでいた60歳の武井惣一さん。現在は契約社員として用務員の仕事をこなしながら、「残業のつもりで」ドラッグストアでも働いているそうです。自己破産を経験し、心が折れそうになりながらも日々を懸命に生きる武井さんが語ってくれた「貧困のリアル」とは。ルポライター増田明利氏の著書『お金がありません 17人のリアル貧困生活』(彩図社)よりみていきます。
もうしんどい…年収1,000万円→いまは“働きづめ”で月収26万円。借金を返せず「自己破産」した60歳・非正規男性の嘆き【貧困の実態】
もうしんどい…武井さんが語る「人生の目標」とは
会社が駄目になってからは交際の範囲、交友関係、生活圏などがどんどん狭まっている。
「何をするにも仕事を中心に回っていたんだなと思いますね。だから仕事が上手くいかなくなったら疎遠になる、そういうことですよ」
幸いなことに自分の姉弟、妻の兄などの親族に金銭的な迷惑をかけなかったことが救いだ。だけど経営していた会社が倒産したことは明かしていない。同情されたり心配されるのが嫌なので自主廃業したんだとだけ告げてある。
「今の生活ですか……? 個人的な生活に潤いとか楽しみはありませんねえ」
昔から絵を描くのが趣味でカルチャーセンターの水彩画講座に通っていたことがある。そこで親しくなった人たちとスケッチ旅行に行ったり、絵画展などに連れ立って出かけていたが、今は趣味に費やすお金も時間もないからすっかりご無沙汰だ。
「親戚の慶弔事があると、まず最初にいくら包まなきゃならないんだと考えちゃってね。我ながら嫌になる」
このゴールデンウィークは5月5日だけ夫婦とも公休日だったので、夕食は奮発して中華レストランで食事したのだが、外食したのは正月以来の贅沢だった。
「今の目標は現状維持。ここが土俵際だと思っている」
ドラマや小説のように会社を倒産させた人間が何かのきっかけで見事復活し、以前よりも隆盛を極めるなんていうのはお伽話。そもそも、もうそんなエネルギーはない。
「何としても今の収入を維持する。これ以上、身体を悪くさせない、重い病気にならないよう健康管理に努める。妻を怒らせない。これだけです」
26歳のときに独立して27歳のときに会社設立。徐々に規模を拡大させピーク時は年商で3,000万円、個人収入が1,000万円ということもあったが幕は下りた、現実を受け止めて生きていくしかない。
「男性の平均寿命は81歳ぐらいですよね、まだ先は長いよな」
嫌でもあと20年ぐらいは生きていかなきゃならないが、もうしんどいと心が折れそうなときもある。
増田 明利
ルポライター