がん治療による休職から復帰したあとは、休職期間のことを取り戻したいと考える人も多いでしょう。そのようななか、腫瘍内科医として日々診療にあたっている勝俣範之氏は、復職後に「決してやってはいけないこと」があると警告します。勝俣氏の著書『あなたと家族を守る がんと診断されたら最初に読む本』(KADOKAWA)より、がんの治療と仕事を両立させるための“コツ”をみていきましょう。
“休職”から復帰したはいいものの…「がん治療」と「仕事」を両立させるため、決してやってはいけないこと【医師が警告】
無理は禁物!…治療費や家計の不安も支援アリ
勝俣:がんの治療を受けながら働くときには、焦ったり、無理をしないことです。とくに退院後に復職したときなどは、つい無理をしがちです。自分では気づかないところで体力が落ちていたり、集中力が続かないこともあります。
そんなときに慌てて無理をするのは禁物です。大事なのは、そこから先なのです。長い目で見て、仕事と治療の両立を考えてほしいと思います。
O:休職期間のことを取り戻そうと、無理をしてこれまで以上にがんばらないことですね。
勝俣:はい。また、復職前に会社との間で取り決めた働き方が無理だということであれば、主治医に意見書や診断書を書いてもらい、働き方を見直すことも1 つの方法です。そういうことで様子を見ながら、自分のペースを取り戻すようにすればいいと思います。
O:根ががんばり屋の人ほど、責任感から無理をしてしまうかもしれません。その結果、これまで普通にできていたことができないとショックを受けたり、周囲に迷惑をかけていると落ち込んだりする方も多いのではないでしょうか。
そうなると、メンタルヘルスのうえでもよくありませんね。
勝俣:なんでも1人で対処しようと思う必要はないのですよ。医師はもちろんですが、精神腫瘍医や臨床心理士などにも相談したり、常に周囲に助けを求めましょう。
O:心身の調子が崩れると、治療費や家計の不安も募ってくると思います。
勝俣:本当に徐々にではありますが、最近はがん診療連携拠点病院などに保険や年金に詳しい社会保険労務士さんやファイナンシャルプランナーなども配置され始めています。そうした方に相談してアドバイスを受けるのも1 つの方法です。
O:治療と仕事の両立のために、少しでも自分の味方をつくっておくということですね。
勝俣:その通りです。がん診療連携拠点病院が中心になって、ピアサポーターや地域の患者会の方々と相談会などを開催していたり、民間のNPO 団体などの支援活動も広がっています。
がんサバイバーの先輩に体験を聞くことで、悩みの解消につながったり、希望がわいてきたりします。また、働き続けるためのヒントも得られると思いますよ。
O:支援活動まで積極的に行っておられるなど、がんサバイバーの存在は本当に頼もしいですね。
勝俣:治療を受けながら働くことを通じて、人生や仕事への価値観が変わったり、自分が本当に大切にしていることは何なのかがわかったりすることもあると思います。もしかしたら、そうしたことにがんの意味があるのかもしれません。
勝俣 範之
日本医科大学武蔵小杉病院腫瘍内科
教授/部長/外来化学療法室室長