専業主婦世帯が多数派だったころ、「家事は妻の仕事」という考え方が一般的でした。共働きが主流である現在はどのように変わったのでしょうか? 本記事では、株式会社Smart相談室、代表取締役・CEOの藤田康男氏にのもとに寄せられた相談事例に基づき、夫婦の家事分担と仕事への影響について解説します。
夫は食器も下げずにソファーにゴロン…年収550万円の30歳「共働き・家事負担過多の会社員妻」残業できず昇進逃し、涙 (※写真はイメージです/PIXTA)

仕事のパフォーマンスが上がらない理由

女性社員:年収550万円 30歳

A:女性の直属の上司

 

「仕事のことで相談がある」そう部下から言われて、上司Aは、ミーティングを設定した。その社員は新卒で入社して、8年目の女性だ。昨年結婚して、結婚後も変わらぬスタンスでクライアントワークをこなしていた。Aは「おそらく、評価に関することかな?」と思いながら、ミーティング開始時間を迎えた。

 

案の定、評価結果についての確認から会話がスタートした。前回の評価結果で、彼女は入社後初の「現状維持」となった。これまでの彼女の活躍からすると、ここらで然るべきポジションへの登用も想定されたが、そうはならなかった。

 

浮かない表情に、メンタル不調も疑ったが、ハキハキと喋っているので心配はなさそうであった。評価結果の根拠となる事柄を指摘しながら、認識の確認を行った。Aは日頃から部下とのコミュニケーションが取れている自負があったので、自信を持って擦り合わせをし、彼女もその内容に納得していた。

 

一通り擦り合わせが終わったあと、双方が認識した期待値に達していない部分について、具体的に今後どう進めて行くべきかに話がおよんだ際、これまでに聞いたことのない口調で彼女の口から言葉が発せられた。

 

「だって、お皿洗いしてくれないんだもん!」怒っているような、開き直っているような、子供っぽいような、Aは彼女の声色からそんな印象を受けた。これまで8年間、新卒から彼女のことを見ているが、初めての側面を見た。彼女自身もハッとした様子で、恥ずかしさを隠しきれないような表情をしていた。恥ずかしさのあまり、目尻には涙が滲んでいる。

 

気を取り直して、どういう意味なのか、ゆっくりと聞いてみたところ、期待値に達していない部分は、クライアントに提案する内容の精度、範囲、量に関するもので、それを改善するために、複数のアイデアを卓上にあげたとき、彼女は咄嗟に「時間がない」と感じたのだという。そして、意識せずに出た言葉が、「だって、お皿洗いしてくれないんだもん!」だったと……。

 

それでも消化不良を感じていたAは、さらに深く慎重に話を進めた。どうやら結婚後、パートナーが家事を行ってくれないそうだ。夫は食器も片付けず、夕飯を食べ終わるやいなやソファーに寝転がり、ゲームを始める。夫に自らが家事をする、という意識がなく、妻の負担が大きいがために、十分な仕事時間を担保できないとのことだった。

 

共働きでダブルインカム、給料に差はないそうだ。自社の給与水準は低いわけではない、さらに昇進の可能性も十分にある彼女をサポートしてもいいのでは?とも感じたが、パートナーはそう思っていないよう。分担を決めても、その約束を守らないそうだ。「そもそも、それは夫婦関係として良好なのだろうか……」Aはそんなことまで考えてしまった。

上司として、どこまで踏み込むべきか

本事例は、仕事の評価にまつわる相談を進めていくうちに、プライベートでの問題が表出したというものです。上司Aの視点でこの相談を受けたときに、最も悩むであろう部分は「どこまで話を聞いて、どこまで一緒に課題解決の話をすればいいのか」という点でしょう。下手をすると、よかれと思って話を聞いたことに端を発して、ハラスメントと言われてしまう可能性も。

 

考えてみれば、個人の時間は1日24時間。上司Aは、そのうちの8時間だけを「会社で働く部下」としてみています。しかし、個人の視点では、会社もプライベートも地続きなもの。会社以外の16時間で起きた出来事から、仕事に影響を受けるのは当然ともいえます。しかし、仕事以外の部分にまで、会社の職責として言及するのは、無理があるのも当然です。

 

そして一方、今回のケースでは、相談を希望した部下は「仕事のこと」として相談の申し出をしています。当初の問題も、評価、仕事の成果としており、やはり「仕事のこと」として上司に話をしています。もしかすると、本人としても途中から仕事のことを相談したいのか、プライベートのことを相談したいのかわからなくなっているのかもしれません。しかし、上司と部下という関係である以上「仕事のことである」という側面は残り、求める答えは、仕事の成果が上がることなのです。

 

上司の立場では、こういったプライベートなことが仕事のパフォーマンスに影響をおよぼす可能性があることを理解しておく必要があるでしょう。