要介護の父と姉、弟…家族3人がしっぽりするなか、突然、遺言書の話になり
そしていよいよお盆。弟家族と顔を合わせるのは、コロナ禍もあったので5年ぶりです。甥や姪が想像以上に大きくなっていてとにかく驚いたとか。
久々に賑やかな雰囲気に、普段の疲れも吹き飛んだという陽子さん。終始、笑顔が止まらなかったといいます。しかし、そんな楽しい雰囲気も最終日まで。次の日は帰るという夜。ベッドに横たわる父を囲んで陽子さんと弟の3人で、昔話に花を咲かせていました。
そんなとき、ふと父親が仏壇にしまってある封筒を取ってきてくれと陽子さんに伝えます。その封筒のなかには、遺言書のコピーが入っているといいます。「いつ迎えが来るか分からないから、遺言の内容を知らせておきたい」というのです。
すでに遺言書を用意しているなど知らなかった陽子さん。驚いたといいますが、さらに驚いたのはその内容。
――全財産を弟へ
遺言書の全貌を知ったとき、時が止まったと陽子さん。
――えっ、全財産!? うそでしょ
10年もの間、ほぼ泊まり込みで父親の介護をしてきました。すでに陽子さんの子どもは大きくなり、手がかからなくなっていたとはいえ、犠牲にしてきたことがあまりにも多すぎます。
――お父さん、私、納得できない
率直な意見を伝えます。すると父親は相続に対する思いを語ります。
――長い間、介護をしてくれたことには感謝をしている
――ただ、嫁にいった陽子は、もはや内藤家の人間ではない
――先祖が眠る墓は弟が守ってほしい
――だから財産はすべて弟に相続させる
確かに、父親の考えには一理あります。しかし、陽子さんの7年分の苦労はどうなるのでしょうか。感情がぐちゃぐちゃになり、涙が止まらなかったという陽子さん。楽しかったお盆の思い出があっという間に壊れていく気がしたといいます。
陽子さんは「遺留分」を請求できます。これは一定の相続人に対して、遺言によっても奪うことのできない遺産の一定割合の留保分であり、法定相続分の2分の1、陽子さんの場合、遺産の4分の1を主張できます。
また陽子さんと弟で2分の1ずつ分けなさいという遺言書だったとしても、「寄与分」を主張できるでしょう。これは被相続人の財産の維持、増加に特別の貢献をした相続人の持つ取り分で、寄与の種類としては、被相続人に対する療養看護等があります。
しかし陽子さん、そんな気持ちはさらさらないといいます。ただ父親が全財産を弟に渡すというならば、これ以上、自分を犠牲にする必要はありません。再び、父親が入居できる施設を探し始めているといいます。
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