厚生年金に加入する会社員などが死亡した際に20代~50代の配偶者が受け取る「遺族厚生年金」について、厚生労働省が見直し案を示したことに物議を醸しています。内容は遺族厚生年金について男女差を是正するものですが、SNSを中心に「改悪」と反発する声も。年金相談会に寄せられた事例をもとに、角村FP社労士事務所の特定社会保険労務士・CFPの角村俊一氏が解説します。
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中高齢寡婦加算も見直しへ
中高齢寡婦加算は、夫によって生計を維持されていた中高齢の妻は、夫の死亡後に就労して十分な所得を得ることが困難であること、また遺族基礎年金が支給されない場合は遺族厚生年金だけでは生活を営むのが難しいことを理由に支給されます。
例えば、会社員の夫が亡くなった場合、子がいる妻は遺族基礎年金と遺族厚生年金を受給できます。しかし、子が18歳年度末を迎えると「子のない妻」となるので遺族基礎年金の受給権を失います。そこで、自身の老齢基礎年金が受給できる65歳になるまで中高齢寡婦加算(令和6年度は年額612,000円)が支給されるのです。中高齢「寡婦」加算ですから、「寡夫」には支給されません。
見直し案では、中高齢寡婦加算に関し、「女性の就業の進展等を踏まえ、かつ、年金制度上の男女差を解消すべきという観点からも、将来に向かって段階的に廃止することを検討する」としています。
通常、年金制度を見直す場合、経過措置や激変緩和措置が採られます。遺族厚生年金の見直しに関しては、「現行制度の遺族厚生年金額よりも金額を充実させるための有期給付加算(仮称)の創設」や、「現行制度の離婚分割を参考に、死亡者との婚姻期間中の厚年期間に係る標準報酬等を分割する死亡時分割(仮称)の創設」を検討するなどとしていますので、続報を待ちましょう。
また、中高齢寡婦加算については、「廃止にあたっては、激変緩和の観点から十分な経過措置を設ける」としています。
最後に相談員は女性に対し、「資料によると、今回の見直し案がすべて完了するのは法律が施行されてから20年~25年後です。まだ決定事項ではありませんが相当先の話ですので、少しでも将来の不安が和らぐよう、お子さんの成長とともに働く時間を増やすとか、生命保険に加入することなどを考えてみてはいかがでしょうか」とアドバイスしました。
角村 俊一
角村FP社労士事務所代表・CFP