どうせなら、楽しく年をとりたいですよね。医学博士の大島清氏は著書『“円熟脳”のすすめ 脳を活性化させて健康で長生き』で、「人生の後半は、自分の脳をいかに円熟させるかにかかっているのです」と言います。一体どういうことでしょうか? 詳細を本書から紹介します。
どんな運動が脳にいいのか
ここで誤解してもらっては困るのは、意味もなく激しく身体を動かして汗をかけば、脳が活性化するわけではないということです。健康ブーム、ダイエットブームの昨今、どんなところにもスポーツクラブがあり、多くの人が、高いお金を払って一心不乱に身体を鍛えています。しかし、そうした人たちの表情を見ると、あまり楽しそうではないのが気になります。
失礼ながら私には、スポーツクラブで汗を流している人たちの多くは、回転する環のなかをグルグル回るネズミのように、時間がくるまで、苦痛にたえながら必死にやっているイメージが多い気がします。ノルマを達成することだけを考え体を動かし、それが終わるとシャワーを浴びてさようなら、です。たしかに運動はしていますが、それは、たんなるカロリー消費と、筋肉強化でしかありません。なかには、その後ビールを飲むためのエクササイズと割り切っている人もいるようです。
こうした「運動」は、たとえば農作業や趣味の園芸、あるいは俳句の吟行といった、前頭葉を活発に使う、精神性の高い運動とは基本的にちがいます。ご当人たちは、そうしていれば健康でいられると錯覚しているようですが、こうした運動は、脳の円熟化とは無関係といえます。たんに肉体を鍛える、健康管理をする、ということだけにとらわれていては、ほんとうの目的を見失ってしまいます。かんじんなのは、精神性と身体性の、よりよきバランスということです。
その意味で、スポーツクラブで苦しい思いをして肉体トレーニングをするより、散歩をしながら俳句をひねったり、バードウォッチングをしたり、あるいは家じゅうの床をピカピカに磨きあげるといった「気持ちのよい」身体トレーニングのほうが、脳を円熟させていくうえでは、はるかに効果的であり、ひいては体の健康を保つことにもなると知っておいてください。
大島清
医学博士