どうせなら、楽しく年をとりたいですよね。医学博士の大島清氏は著書『“円熟脳”のすすめ 脳を活性化させて健康で長生き』で、「人生の後半は、自分の脳をいかに円熟させるかにかかっているのです」と言います。一体どういうことでしょうか? 詳細を本書から紹介します。
皮膚感覚を刺激すれば、植物人間の脳も回復する
触覚は、私たちヒトが、人間であるうえで、きわめて重要な働きをしています。それは私たちの脳が、発生期の初期に、皮膚が中にへこんで発達したものであることをみても明らかです。お母さんのお腹のなかで、赤ちゃんが生育するプロセスを見てみましょう。動物でも、植物でもそうですが、生物が生育するときは、まず最初に、内側を保護する外側の皮や膜ができます。人間も同じで、胎児は外側に膜ができ、その膜の中に内臓が浮かんでいる形になります。やがて、この膜は内側にめりこんでいき、前後に長く伸びていきます。
それが脳です。前に伸びたところは膨らんで脳の本体になり、後ろに伸びたところは、脊髄神経系になります。こうしてみると、皮膚と脳はいわば兄弟のような関係にあることがわかります。皮膚を刺激すれば脳が刺激され、刺激を受けた脳から命令が出されると、ホルモンの関係で、皮膚がつややかになります。いい恋をすれば、女性は顔や肌の色つやがよくなり美人になると言われるのは、まんざらウソでもないのです。
やがて胎児の皮膚には、目二つ、耳二つ、鼻二つ、口の七つの穴が開きます。これは見たり、聞いたり、嗅いだり、食べたりして、自分をとりかこむ環境と直接に交流する場所です。つまり、人間にとってきわめてたいせつな感覚器は、皮膚から発生しているのです。皮膚感覚がいかに人間にとってたいせつか、ここにもその理由があるのです。
私たち現代に暮らしている人間は、一見、健康に何の支障もなく活動しているように見えて、そのじつ、脳のほうは、ある意味で植物人間状態にあるのではないでしょうか。視覚刺激ばかりを追求し、見たものだけで脳を快感させ、視覚以外の四感をどんどん切り捨ててしまっているのが現代人なのです。実際、高度成長の波は、私たちに、くさいものやザラザラヌルヌルしたものや、酸っぱいもの、苦いものを切り捨てさせてきたのです。そんな私たちの脳をリハビリするには、たゆまず、あきらめず、皮膚感覚を刺激していく以外に方法はないとさえいえるのです。