どうせなら、楽しく年をとりたいですよね。医学博士の大島清氏は著書『“円熟脳”のすすめ 脳を活性化させて健康で長生き』で、「人生の後半は、自分の脳をいかに円熟させるかにかかっているのです」と言います。一体どういうことでしょうか? 詳細を本書から紹介します。
動物脳の危機は、人類の危機
現代のように、すべてがモノで囲まれた環境になってくると、こうした原始感覚はどうしても損なわれやすくなります。人間だけでなく、地球上の生物のリズムは太陽の明暗、寒暖のリズムにしたがっており、それは遺伝子にしっかり刷り込まれています。
月経、性交、出産をふくむ生殖のリズム、体温や血圧のはたらき、ホルモンの分泌も遺伝子にセットされた体内時計によって変化します。ところが、現代の都市に生きる私たちは、ほんとうの闇というものを失ってしまいました。昔の夜はまっくらで、おばけごっこもできたのに、いまはそんなことは不可能です。自然環境もさんたんたるもので、小川のせせらぎも、野の花のかおりも、ほほを撫でる風のそよぎも、感じとることができません。
昔は広い原っぱもたくさんあって、路地や裏通りもありました。そこには語り部がいて、子ども同士、あるいは子どもと大人が交流するたいせつな場所でした。しかし、いまや人と人のあいだには、スマホによるSNSなどがわりこんで、人間同士が直接的な交流をすることは少なくなりました。そして、子どもたちは外部から遮断された、エアコンをきかせた密室でスマホアプリに支配されてしまうのです。
自然との接触、人と人の直接の触れ合いが少なくなったその結果、原始感覚をフルに回転させて味わい、そこからさまざまな思いをめぐらせるという世界がきわめて狭くなってしまっています。こういう時代だからこそ、意識して動物脳に刺激をおくるようにして、脳全体のバランスをとりもどしていく必要があるのです。