配偶者亡きあとの遺産分割で、住む場所まで失っては大変です。そのため民法では、配偶者の相続が発生したときに、遺された妻・夫が自宅に住み続けられるという「配偶者居住権」という権利を定めています。具体的に見ていきましょう。自身もFP資格を持つ、公認会計士・税理士の岸田康雄氏が解説します。
息子は「現金を相続する」と主張するが…夫の死後「住む場所も、老後資金もほしい」という妻の思いを実現する方法【相続専門税理士が解説】
亡き夫の財産を、長男が「キッチリ分けて」と…
夫が亡くなり、相続が発生しました。相続人は妻である私と長男の2人で、相続財産は自宅と銀行預金のみです。遺産総額は合計で4,000万円で、自宅の建物と土地がそれぞれ約1,000万円、預貯金が2,000万円です。
お恥ずかしいことに、長男とはあまり関係がよくなく、遺産を法定割合できっちり分けるよう迫られています。「自宅はいらないから、預金2,000万円を渡してくれ」といって聞きません。
しかし、その遺産分割では、私の老後資金が足りなくなるのではないかと不安です。アドバイスをお願いします。
60代・女性(埼玉県蕨市)
今回の相談内容のように、相続財産に自宅と現金資産があり、法定相続分通りに遺産分割では、遺された配偶者が現金資産が相続できず、老後資金に不安が生まれてしまう…というケースはよくあります。
そのような場合は「配偶者居住権」の活用をお勧めします。
「配偶者居住権」とは、被相続人が所有していた自宅建物に、その配偶者が住み続けられる権利です。配偶者が、建物の所有権を丸ごと取得したときには必要ありませんが、建物の所有権を取得したのが配偶者以外である場合「配偶者居住権だけ取得する」という方法をとればよいのです。
上記の例の場合、相談者である母親(被相続人の配偶者)は、配偶者居住権と土地の敷地利用権の評価額を500万円ずつ、合計1,000万円とします。長男は、建物の所有権500万円と土地の所有権500万円を取得します。それにより、それぞれが1,000万円ずつ相続することになります。そして、預金の2,000万円を1,000万円ずつ分ければ、長男が希望する平等な分割が実現できます。