相続時の遺産分割においては、民法で定められた「法定相続分」があります。しかし、それを無視した「不公平」な遺言書がある場合、どうしたらいいのでしょうか? 自身もFP資格を持つ、公認会計士・税理士の岸田康雄氏が解説します。
あまりに不公平…「全財産は長男に」亡き父の遺言書を見た長女、激怒。父の遺志を無視した遺産分割を行っても大丈夫?【相続専門税理士が解説】
「全財産を長男に…」遺言書を見た長女、激怒
父が他界し、これから相続手続きを行うことになりました。父の遺産は自宅不動産と預貯金2,000万円程度で、相続人は長男の私と、長女である妹の2人です。
父が遺した遺言書には「全財産を跡継ぎである長男に」とありました。それを見た妹は「ずるい」「私にも相続させるべき」といって大騒ぎしています。
正直なところ、私は実家の財産に興味がなく、全部妹に渡してもいいぐらいなのですが、父が遺した遺言書に従うべきなのか迷っています。もし、遺言書に従わず、妹に相続させた場合、何か法的な問題はあるのでしょうか? また、相続において「法定相続分」というものがあると聞きましたが、今回の遺産分割で、なにか影響を受けることはありますか?
会社員(40代・神奈川県横浜市)
遺言書がある場合、「法定相続分」はどうなる?
かつての日本では、長子相続が習慣になっていたことから、長男がほとんどの財産をもらい、それ以外の子ども、とくに娘にはほとんど遺産が渡されないことがよくありました。しかし戦後、相続においてきょうだいは平等であると法律で定められ、また、その認識が人々の間に浸透したことで、かつてのような長男に多く相続させるケースは減少しています。
相続人全員が納得しているのであれば、遺言書の有無にかかわらず、遺産をどのような分配にしても法律的には問題はありません。
遺言で決めた分け方のことを「指定相続分」といいますが、遺言書がある場合、「法定相続分」(記事『遺産相続の「法定相続分」とは?…法律から見た「相続人の範囲」と「遺産分割の割合」』参照)より、「指定相続分」が優先されることになっています。
特殊なケースですが、ドラマや映画などのワンシーンで〈全財産を愛人に渡す〉といった極端な内容の遺言書が出てくることがあります。愛人は法定相続人ではないため、法律上の相続で財産を受け取ることはできませんが、亡くなった人の遺言があれば、財産を受け取ることができます。ちなみに、亡くなった人が遺言書を書き、財産を渡したい人を決めることを「遺贈」といいます。
とはいえ、相談事例の遺言書のように、きょうだいのうちの1人だけにすべての遺産がわたり、それ以外の相続人がなにも相続できないのは不公平です。
遺言でも奪えない「遺産の一定割合の取り分」とは?
財産の100%を他人に遺贈するようなケースはまずありませんが、しばしば相続トラブルとなるのが、今回の相談内容のように、法定相続人の1人だけに極端に多く財産を渡すようなケースです。
そのような不公平が起こらないよう、法律では、法定相続人に「遺留分」というものが定められています。
「遺留分」とは、一定の相続人に対し、遺言によっても奪うことのできない遺産の一定割合の取り分のことです。法定相続人は、最低限の割合の遺産を相続できるように保障されており、遺言で遺留分を侵害されても、裁判で争えば取り返すことができます。
遺産分割は通常、遺言書や遺産分割協議で決まるため、法定相続分の計算を使うケースはまれですが、遺留分の場合は、法定相続分の計算が使われることになります。
相続人が亡くなった方の配偶者・子ども・孫なら、遺留分は「法定相続分の2分の1」、両親なら、法定相続分の「3分の1」です。兄弟姉妹(あるいは甥姪)には、遺留分はありません。
今回の相談事例では、相続人は亡くなった方の子どもですから、法定相続分の2分の1、つまり4分の1が遺留分ということになります。したがって、遺言書の内容にかかわらず、妹さんは遺産の4分の1を必ず受け取ることができます。
もし、遺言によって受け取った遺産が遺留分よりも少なかった場合は「遺留分侵害額の請求権」が発生します。つまり、たくさん遺産を受け取った人に対して、遺留分侵害額に相当するお金の支払いを求めることができるのです。これを「遺留分侵害額の請求」といいます。家庭裁判所に対して遺留分侵害額の請求に関する調停を申し立てることになりますが、調停で合意できなければ訴訟になります。
岸田 康雄
公認会計士/税理士/行政書士/宅地建物取引士/中小企業診断士/1級ファイナンシャル・プランニング技能士/国際公認投資アナリスト(日本証券アナリスト協会認定)
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