子どもの学力には、遺伝的・環境的な影響があるとよく言われます。しかし実際に「遺伝」や「環境」は、それぞれ子の教育過程とどれほど関係があるものなのでしょうか。本記事では、日本における双生児法による研究の第一人者である安藤寿康氏の著書『教育は遺伝に勝てるか?』(朝日新聞出版)から一部抜粋し、「遺伝」と「環境」それぞれが子の学力に与える影響について、ふたごの比較に基づいて解説します。
親の育て方が子どもの学力にどう影響するのか…ー双生児法から考える
私たちの研究では、学齢期のふたごの子どもとその親を対象に、家庭での環境、子ども自身の勉強へのとり組み方、そして学業成績との関係を調べました※。
双生児法による行動遺伝学的分析手法が他の分析手法と違って優れているのは、遺伝の影響と環境の影響を区別して因果関係を明らかにすることができるということです。
これまで、一卵性双生児と二卵性双生児の類似性を比較することにより、ある形質に影響を及ぼす遺伝と環境の程度を推定することができることをお話ししました。
これは身長や体重、知能や学業成績、外向性や神経質さなども、ある一つの形質として考えたものでした。この考え方は、因果関係について考えたい二つの形質にあてはめることができます。
たとえば親が子どもに本の読み聞かせをすることと学業成績との関係について考えてみましょう。これは子どもにより多くの読み聞かせをすることが原因となって、それによって学業成績が良くなるという結果をもたらすと考えられがちです。もしそうなら一卵性双生児のきょうだいでも二卵性双生児のきょうだいでも、同じように親が読み聞かせをするほど成績が良くなるという関係が見られるはず。
つまりふたごの一方にたくさん読み聞かせをしていれば、一卵性であろうと二卵性であろうと、もう一方の子どもにも同じようにたくさん読み聞かせをしており、その結果、卵性にかかわらず子どもの成績は良くなっているはずです。これならば 「共有環境」が原因です。そしてふたごの一方への読み聞かせの程度と、そのふたごのもう一方の学業成績とが、一卵性でも二卵性でも同じように高く相関するはずです。
しかしもしこれが遺伝が原因だったらどうなるでしょう。
つまり子どもが遺伝的に学業成績が良いほど、親も子どもによりたくさん読み聞かせをしたとしたら、一卵性のきょうだい間ではこの因果関係が同じ程度に現れますので、一方への読み聞かせの程度ときょうだいのもう一方の学業成績の相関が高くなりますが、二卵性だときょうだいで遺伝的に違いますので子の相関は低くなります。
この考え方に基づいて統計的な解析をすることで、読み聞かせと学業成績との因果関係が遺伝と共有環境、そしてさらには非共有環境によってどの程度を説明できるのかを推定できるのです。