遺伝が人生の選択肢に強く影響することは、もはや周知の事実です。しかし、遺伝についての人々の認識は、多くの誤解もあって……。本記事では、日本における双生児法による研究の第一人者である安藤寿康氏の著書『教育は遺伝に勝てるか?』(朝日新聞出版)から一部抜粋し、双生児による行動遺伝学研究という観点から「遺伝」と「環境」の関係について、データに基づいて解説します。
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都会と田舎はどちらが自由か?
家庭の裕福さ以外に、自由度を左右する環境の違いは、一体何があるでしょうか。
行動遺伝学の研究でよく着目される環境は、住んでいるところが田舎か都会かの違いです。何万人もの人が密集し、人々の行き来も激しい都会と、人口が数千人程度と少なく、限られた人との付き合いが中心となる田舎とでは、行動の仕方に及ぼす遺伝と環境のかかわり方まで変わってくることが明らかにされています(これを示したミネソタ大学の研究では、人口5万人以上を都会、1万人以下を田舎としています)。
田舎と都会では、果たしてどちらが行動の自由度が大きいでしょう。
田舎はのびのびとしているし、知らない人の目も気にする必要がないから自由度が大きいのに対して、都会は人間関係も窮屈そうだし、いつもたくさんの人の目を気にしなければならないから自由度が小さいと考える人もいるでしょう。
逆に田舎では親類や昔からの知り合いばかりに囲まれているし、古くから伝わる習慣に縛られやすいし、選べる仕事も限られているし、自由に好きなものが買える大きなショッピングセンターもないし、アマゾンで買い物をしてもなかなか届かなくて不自由なのに対して、都会なら違った価値観の人が互いに干渉せずに生きていけるし、たくさんのお店や仕事の機会があるので自由度が大きいと考える人もいるでしょう。
どちらの可能性もありますね。読者の皆さんはどのようにお考えですか。
遺伝的に劣っているからではない…人生の選択肢を狭める、最大の「足かせ要因」とは
双生児による行動遺伝学研究からわかること
これを頭の中だけで考えるのではなく、実際のデータで示してくれるのが双生児による行動遺伝学研究です。もしどちらかの環境で遺伝率が大きくなれば、それは、それだけ環境が自由だから遺伝的な素質に合わせた行動が選べた、と考えられます。しかしもし共有環境や非共有環境の影響が大きければ、それだけ環境に左右され、自由な選択ができていないということになります。
ここで遺伝と環境の考え方が、ふつうと逆転していることに気づくでしょう。ともすれば遺伝は人間を内側から縛るもの、それに対して環境はそれを自由に解放するものと考えられがちです。ところが遺伝側からすれば、環境の方が遺伝の進みたい自由に足かせをはめる要因と位置付けられているのが重要です。