コロナ禍をきっかけに首都圏から地方への移住に注目が集まっています。物価も安く、人混みのない自然豊かな田舎で余生を過ごしたいと考えてリタイア後に移住を考えるシニアもいますが、「こんなはずではなかった」と後悔するケースも少なくありません。今回はまさしくそんな状況に陥った65歳男性の事例を小川洋平FPがお伝えします。
「人が多い、暑い、物価も高い…東京にはもうウンザリだよ」…静かな生活を求めて地方に移住した〈年金11万円の65歳男性〉が半年後に大後悔した切実な事情【FPの助言】
「東京を離れて、地方で静かに暮らしたい」と移住を決断
木村英樹さん(65歳)は現在、東京から地方に移住し、独り暮らしをしています。長く暮らした都会を離れて見知らぬ土地で生活しているのには、こんな経緯がありました。
もともと人付き合いが苦手な木村さんは、30代半ばで社内の人間関係が嫌になり勤務していた会社を退職。その後はできるだけ人と関わらずに済むようなアルバイトをしながら生活してきました。
そんな木村さんもいつの間にか64歳を迎えました。ちょうどその頃に、都内で行われていた地方移住のイベント会場の前を偶然通りかかり、全国から数多くの市町村が移住者を求めてブースを出店しているのを見かけ、興味を持ち話を聞いてみることにしました。
これが木村さんにとっての大きな転機になりました。広い土地でのんびりと暮らすことができるようなイメージ写真を目にして、夢が広がったのです。
現役時代にはなかなかお金を貯めることができずにいた木村さんでしたが、紹介された東北の町では65歳を過ぎてもパートなどでの勤務先もあるとのことでした。さらに、空き家になっていた戸建ての家を自治体の補助で月々たった2万円で借りることができると説明されました。
「都会と違い住宅が密集していない地域であれば、これまでアパート暮らしで気になっていた周囲の部屋の音も気にする必要がない。隣近所との関係も気にしなくて済みそうだ。地方だったら物価も安いだろう。辛くない程度に収入を得ながらのんびり暮らすのも悪くない」……木村さんはこんな風に考えたのでした。
東京に知り合いも少なかった木村さんにとって、知らない土地に移り住むという心理的なハードルはそれほど高くありませんでした。むしろ「人が多すぎるし、夏は暑すぎる。物価も高いし、もう都会にはウンザリ」という気持ちだったのです。
こうして夏のある日、東北の小さな町に移住することを決断した木村さん。独身という身軽さもあり、移住はとてもスムーズでした。晴れて地方で快適な新生活を送るはずの木村さんでしたが、想定外のことが起きてしまうのでした。