亡き母の相続、銀行預金はどうすれば…

先日、母が他界しました。これから相続手続きを行うのですが、きょうだい全員で頭を抱えているのが、母の銀行預金についてです。長姉が母のメインバンクで「母が亡くなった」と話したところ、母の口座が凍結されてしまったのです。

私たちきょうだいは、葬儀費用やその他の支払を母の口座のお金を使いたいと考えていたため、とても困っています。今後の口座をどうしたらいいのかも含め、教えてください。


40代会社員(横浜市港北区)

亡くなった方の銀行預金について悩む相続人の方は少なくありません。

まず最初に理解していただきたいのは、故人の銀行預金は「亡くなった日に相続財産となる」ということ。相続人が複数いる場合は、故人が亡くなった日に「すべての相続人共有の財産」となります。

相談者の方が懸念されている通り、相続発生の情報が金融機関に伝わると、故人の口座は凍結されます。これは、遺産分割が確定する前の相続財産の保全が目的でおこなわれます。当然ですが、凍結されると、入金や出金といった取引は一切できなくなってしまいます。

葬儀費用等を故人の口座から引き出せる「仮払い制度」とは?

相談者の方は、葬儀費用の支払い等を故人の口座のお金でおこないたいと考えています。

そのような方のために「仮払い制度」というものがあります。この制度を利用すると、例外的に、故人の口座の一部の金額だけ引き出すことができます。150万円が上限となりますが、「預金残高×3分の1×法定相続分の金額」までは、引き出すことが可能です。

ただし、仮払い制度を利用することで「相続放棄」ができなくなるので、その点には十分注意してください。

その後、どうすれば「引き出し」できる?

亡くなった方の銀行預金を引き出すには、相続人による「口座の解約」もしくは「名義変更」が必要です。

ただし、これらは必要書類を揃えるだけでも相当な労力がかかるため、場合によっては、専門家に代行してもらったほうが安心なケースもあります。

もし相続人の1人が、ほかの相続人の同意を得て故人の口座を相続するという合意ができていても、相続する人ひとりだけでは、口座の解約や名義変更はできません。

口座の解約や名義変更の手続きには「相続人全員の直筆の署名・実印の押印・印鑑証明書」が必要です。したがって、遠く離れた場所に住んでいる相続人や、これまで没交渉の相続人にも、ひとりひとりに連絡して対応してもらう必要があります。相続人全員と普通にコミュニケーションが取れるならいいですが、そうでない場合、自力で全員分を揃えるのはなかなか大変です。

逆にいうと、遺産分割協議の合意ができていなければ、いつまでたっても銀行預金の相続手続きは進みませんし、亡くなった方の預金口座が複数の金融機関にある場合、すべての金融機関で同様の手続きが必要になるため、相当な手間がかかるのです。

相続時の銀行口座の解約手続き→預金引き出しの流れ

では、相続人全員が遺産分割に合意し、相続人全員からの必要書類が集まった場合、その後の手続きはどうなるのでしょうか?

選択肢は、上述した通り「解約」もしくは「名義変更」の2つです。

★解約する場合

遺言書や遺産分割協議書の有無により、必要な書類が違ってくるため、銀行に電話して確認する必要があります。もっとも、ほとんどの金融機関には相続対応の部署があるため、そちらで詳細を教えてもらえます。場合によっては、郵送のやり取りだけで手続きが完了できるケースもあります。

遺言書がなく、遺産分割協議書のみの場合は、故人の「預金通帳」「キャッシュカード」、そのほか「遺産分割協議書」、故人の「出生から死亡まで連続した戸籍謄本」「相続人全員の戸籍謄本と印鑑証明書」が必要です。故人の戸籍謄本については、法務局で法定相続情報一覧図を作ってもらい、その写しを代わりに提出することも可能です。

★解約する場合の「払い戻し」の注意点

解約したときの預金の払い戻しの方法ですが、「現金で受け取る方法」と「相続人の口座に振り込む方法」があります。多額の現金を引き出すのは安全面の問題もありますので、口座に振り込んでもらうのが一般的です。

ただし、ゆうちょ銀行の残高は、ゆうちょ銀行にしか振込みできませんので、注意が必要です。

もし故人がゆうちょ銀行に口座を持ち、相続人にゆうちょ銀行の口座がない場合は、相続人が新たに口座を開設するか、もしくは現金で引き出すことになります。

★相続時の「銀行預金の名義変更」の方法

銀行口座の名義を変更する場合の必要書類は、基本的に解約手続きの場合と同じですが、念のため、前もって金融機関に確認しておいたほうが安心です。

銀行預金の解約や名義変更に「期限」はある?

銀行預金の解約や名義変更をしたくても、必要書類を揃えるのに時間がかかるなどして、速やかにおこなえないケースもあるでしょう。

これらの手続きには、基本的に期限はありません。ただし、相続税の申告と納税には「相続発生日または相続発生を知った日の翌日から10ヵ月以内」という期限がありますので、それに合わせてできるだけ早めに着手するのがお勧めです。

手続きに不安がある場合は、多少の費用はかかりますが、相続の専門家に手続代行を依頼するほうが安心かもしれません。
 

岸田 康雄
公認会計士/税理士/行政書士/宅地建物取引士/中小企業診断士/1級ファイナンシャル・プランニング技能士/国際公認投資アナリスト(日本証券アナリスト協会認定)

★死亡後の銀行預金の解約についてはこちらをチェック!
凍結されても150万円までは引き出せるって?! 名義変更の手続き方法も解説

★相続時に残高証明書の取得する理由についてはこちらをチェック!
【相続】相続時に残高証明書の取得する理由と預貯金の仮払い制度とは?

<カメハメハ倶楽部会員のための教養講座>
初心者のための「ChatGPT Plus」の基礎知識
税理士が実務での使い方を公開
>>5/16開催

上記他、本稿執筆者 岸田康雄氏登壇セミナー
相続手続き/M&Aで高く売却できる方法…
様々なテーマで
毎月開催!!