不動産を取得した際には「名義変更」が必要に

先日、母が他界しました。母の相続財産には、実家の土地と建物があり、これらの名義変更をおこなうことになりました。少し調べたのですが、いろいろな手順があるほか、さまざまな書類が必要で、気が遠くなりそうです。やるべきことを端的に教えていただけないでしょうか。 会社員(50代・川崎市)

不動産を取得した際には「名義変更」が必要となります。法律用語では、名義変更のことを「所有権移転の登記」といいます。相談者のように、相続によって不動産の所有権を移転させる登記は「相続登記」と呼ばれます。

不動産の相続登記の必要書類

相続登記は、大まかにいうと「不動産に関する書類」「戸籍に関する書類」の2種類の書類が必要となります。

◆不動産に関する書類

不動産に関する書類は、「固定資産税評価証明書」「名寄帳」「登記簿謄本」の3つです。

書類の揃え方ですが、「固定資産税評価証明書」と「名寄帳」は、その不動産が東京23区にあれるなら都税事務所、それ以外にあれば、市町村役場の窓口で取得することができます。その際、「固定資産税評価証明書」は、相続登記の申請をおこなう年度のものが必要となるため、注意が必要です。

また「登記簿謄本すなわち全部事項証明書」は法務局で取得することになりますが、郵送で取得することも可能です。

◆戸籍に関する書類

注意が必要なのは、戸籍に関する書類です。遺言書の有無によって必要書類が異なります。また、不動産を取得される方が、法定相続人以外の場合も異なるので、用意する際は注意が必要です。

●遺言書がある場合の必要書類

遺言書があり、不動産を相続する方が指定されていた場合、亡くなった事実が分かる戸籍謄本と住民票の除票、相続する方の戸籍謄本と住民票が必要となります。

遺言書によって「遺言執行者が指定されている場合」は、遺言執行者の実印と印鑑証明書が必要です。「遺言執行者が指定されていない場合」は、相続人全員の実印と印鑑証明が必要です。

相続登記は「法定相続人を確定するために、被相続人の出生に遡って戸籍謄本を取得しなければならない」と聞いたことがある方がいるかもしれません。そのため「死亡時の戸籍謄本だけでは足りないのではないか?」と思われるかもしれませんが、遺言書で相続する方が指定されている場合は、法定相続人を確定する必要がないため、死亡時の最後の本籍地の戸籍謄本だけで問題ありません。

●遺言書がない場合の必要書類

遺言書がない場合は、まず、相続人全員で遺産分割協議をおこない、遺産分割協議書を作成することが必要です。

遺言書がある場合とは異なり、法定相続人を確定する必要があるため、亡くなった方の出生から死亡まで連続した戸籍謄本と住民票の除票、相続人全員の戸籍謄本、相続される方の住民票、相続人全員の実印と印鑑証明書等が必要となります。

相続登記で必要になる「被相続人の戸籍謄本」とは?

相続登記の際も、「法定相続情報証明制度」を利用することが可能です。その場合、法定相続情報一覧図の写しを提出することで、亡くなった方の出生から死亡まで連続した戸籍謄本、相続人の戸籍謄本の添付に代えることができます。

とはいえ、法定相続情報証明制度を利用する際にも、一度は出生までさかのぼって戸籍謄本を取得しなければならず、手続きには時間がかかります。

専門的知識がなければ取得が困難な場合もあるほか、被相続人に離婚歴があったり、養子縁組をしていたり、本籍地の移動が多いと、取得する戸籍謄本の数は多くなるうえに、場合によっては「改製原戸籍」や「除籍謄本」を取得する必要がでてきます。

これらの書類は遠方の市区町村役場であれば、郵送で申請し、取り寄せる必要があります。各市区町村が定める様式の交付申請書に必要事項を記載して印鑑を押印し、申請する人の戸籍謄本、本人確認書類のコピー、手数料を支払うための定額小為替、切手を貼った返信用封筒を送る必要があります。

戸籍謄本や戸籍抄本は1通あたり450円、改製原戸籍や除籍謄本は1通あたり750円と手数料が全国一律で決まっています。他の手続きで必要となりやすい住民票の除票は自治体によって手数料が異なりますが、200円から300円程となっています。しかし、実際に発行すべき書類が何枚あるのかは、市区町村役場で調べなければわかりません。つまり、申請する段階では、発行してもらう書類の種類も数もわからないため、手数料がいくらになるか、前もって正確に知ることはできません。

手数料が不足する場合は、不足分を追加で郵送しなければいけないため、同封する定額小為替は少し多めに、5通分ほどの金額を同封することをおすすめします。余った分の小為替は返却されるため、その点については心配ありません。

必要書類がすべて揃ったら、法務局に提出!

必要書類がすべて揃ったあとは、法務局の窓口で名義変更の申請をします。郵送やインターネットでも申請は可能です。しかし、郵送やインターネットでの申請の場合、書類に不備があった際の修正手続きは意外と面倒です。「窓口で確認しながら申請したほうが早かった…」ということもあるので、よく検討しましょう。

必要書類は提出後に原本返却を依頼すると「遺言書」「遺産分割協議書」「戸籍謄本」「住民票」「印鑑証明書」は返却してもらえます。書類の取得にも手数料がかかるため、原本返却を依頼することをおすすめしますが、返却は登記手続き完了後となり、申請当日に返却されるわけではないことに注意が必要です。

不動産を管轄している法務局で相続申請すると、2週間ほどで相続登記が完了します。登記完了予定日に法務局へ行くと「登記識別情報通知」を受け取ることができます。これは、権利証、登記済証に代えて発行される書類で、重要な書類のなめ、大切に保管しておく必要があります。直接法務局に行くことができない場合は、申請の際に切手を貼った返信用封筒を渡しておけば、郵送してもらうことも可能です。

ここまで、相続登記の手続きについて解説してきましたが、集めなければいけない書類も多く、一般の方には難しい手続きといえます。多少は費用はかかっても、司法書士に任せた方が安心でしょう。

岸田 康雄
公認会計士/税理士/行政書士/宅地建物取引士/中小企業診断士/1級ファイナンシャル・プランニング技能士/国際公認投資アナリスト(日本証券アナリスト協会認定)

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