老後はどんな会話をするといいのでしょうか? 精神科医の保坂隆氏は、による著書『精神科医が教える ずぼら老後の知恵袋』の中で「プチずぼら」を推奨しています。一体それはどんなことをすればいいのでしょうか? 具体的な方法を本書から紹介します。
プチずぼら派の会話テクニック
「別に人とつきあうのは嫌じゃないんだけど、もともと話すのが苦手だから、すぐに会話が終わっちゃって、その後、白けちゃうんだよね」
こんなふうにつきあい下手を認めながら、「でもやっぱり友だちは欲しいね。この歳になったら難しいかもしれないけど、この歳だからこそ友人は必要だと思う」と、なんとなく人とうまく打ち解けられない悩みを打ち明けられたことがありました。これは職場での人間関係を失った定年後の男性にとても多いようです。
仕事ひと筋に働いてきた男性に、いきなりユーモアたっぷりに話せとか、洒落た冗談を言えとか要求しても、それは無理というもの。まして、会社では役職にあって、部下や取引先にいつも頭を下げられていたような人は、会話の端々にもプライドが顔を覗かせて、相手を引かせてしまうのかもしれません。
「そう言われても困るけど、それじゃどうしたらいいの?」と聞かれたら、私なら「聞き上手になりなさい」と答えます。会話は、話す人と聞く人がいて成り立ちますが、実は大部分の人が話を聞くより自分の話を聞いてほしい「話し好き派」なのです。
たとえば、カラオケで「自分で歌うより人の歌を聞く方が好き」という人が少数派なように、大抵の人は「誰かに自分の主張を聞いて理解してほしい。自分の話に共感してほしい」と思っています。そのため、人の話をじっくり聞いてくれる人はとっても貴重。聞き上手の人なら、友だちづくりのチャンスもぐっと増えるはずです。
ただし、ただニコニコ話を聞いているだけでは聞き上手とはいえません。聞き方の中で一番工夫してほしいのは「相槌」です。会話を軽快に進めるには、適切でテンポのいい相槌が欠かせません。普通、相槌というと「はい」「ええ」「そうですね」などが無難なパターンですが、これだけでは単調になりすぎます。
たとえば、共感を示すなら「その通りですね」「なるほど」「もっともですね」「同感です」と言ってみたり、興味を示すなら「本当ですか」「それは意外です」「驚きました」と表情を交えて関心度を表します。会話に興が乗ってきたら、「それからどうしたんです?」「その次が聞きたいですね」などと、好奇心が伝わるような言い回しを使うといいでしょう。
実は、これらの会話テクは、銀座のママさんたちの得意技と同じです。プロの話術を真似れば、多少の口下手でも大丈夫かもしれません。そして、最もプチずぼらで効果的な会話術が「秘伝おうむ返しの術」です。「昨日は電車に乗り遅れて散々だったよ」という発言に対して、「あら、電車に乗り遅れたんですか」というのが基本的なおうむ返し。
これをちょっとアレンジして少し共感を表したのが、「あら、電車に乗り遅れたんですか。それは災難でしたね」というパターンです。相手の言葉をただ繰り返すおうむ返しは、相手の気持ちを和らげるのにも大変効果的です。しかも、簡単ですね。
たとえば相手の機嫌が悪くて「まったく、最近は頭にくることばっかりよ」と言われれば「本当ですね。頭にくることが多いですね」と返し、上機嫌で「今日美容院で5歳も若く見られちゃった」と言えば「5歳も若く見られちゃったんですか。いいですね。うらやましいです」と返す。
こうすれば、多くを語るより、相手の気持ちをふんわりと和らげられます。これは相手の投げた球を気持ちのいいテンポで受け取って、また投げやすい球を返すようなものなので、コミュニケーションをよくするにはもってこいです。
ただし、会話の中で絶対にしてはいけないのが「話泥棒」です。相手の話を遮って口をはさんだり、「それよりも、これ知ってる?」と話の腰を折ったり、さらには「つまりこういうことでしょ?」と話をまとめたり。こんな会話をしていては、誰も相手になってくれなくなるでしょう。
聞き上手への第一歩は、まず相手への敬意と優しさを持つこと。その意識を持ち続ければ、コミュニケーション能力もますます高まっていきます。