老後はどうすればストレスフリーで生活できるのでしょうか? 精神科医の保坂隆氏は、による著書『精神科医が教える ずぼら老後の知恵袋』の中で「老後はずぼらでいこう」と主張しています。一体それはどんな風にずぼらにすればいいのでしょうか? 具体的な方法を本書から紹介します。
ハレの日の食事も手抜きをしていい
日本には昔から「ハレ」の日と「ケ」の日があって、これらはハッキリ区別されていました。今はあまり聞かれなくなりましたが、普段の生活を「ケ」の日、祭礼や年中行事などを行う日を「ハレ」の日と呼んで、日常と非日常を分けて考えていたのです。
食糧の乏しかった時代、「ケ」の日に頂くのは慎ましく質素な食事で、ご馳走は「ハレ」の日だけに許されるスペシャルメニューだったようです。それに比べて現代は、まさに「飽食の時代」といわれ、お寿司や天ぷら、すき焼き、ステーキなど、どんなご馳走もかなり手軽に食べられます。
すっかり贅沢な食生活に慣れた私たちですが、年齢を重ねるごとに食欲は衰え、ボリュームたっぷりの食事にもあまり魅力を感じなくなってきたのではないでしょうか。それでも、メリハリの乏しくなりがちな老後の生活で、食生活の持つ意味は大きいもの。季節感のある食事やイベントに合わせた料理を楽しむことで、生活の充実度も変わってきます。
たまの「ハレ」の日には思いきってご馳走を堪能するといったライフスタイルは、マンネリになりやすいシニアの生活に格好のアクセントをつけてくれます。ただ、子どもが小さい頃と違って、やたらに行事料理に時間をかけるのは負担が大きすぎます。無理をしてまでたくさんの料理を作る習慣は、定年世代になったらもう卒業した方がいいでしょう。
そこで、おすすめしたいのが「ハレ」の日の外食やお取り寄せです。よく外食をする人もいますが、シニア世帯の外食頻度は決して多くはありません。今でも「外食は贅沢」「外食は不経済」といった先入観があるせいか、または外出を面倒に感じるのか、どうしても家庭での食事が多くなるのでしょう。
でも、冷静に考えてみると、実は外食の方が合理的で経済的という分析もあるのです。たとえば、料理に必要な材料費や光熱費、食材のムダや調理の手間などをトータルで考えると、家での食事が経済的とは言いきれませんし、ましてや手間も費用もかかる「ハレ」の日の食事ならなおさらです。
実際に調理をする人なら、食後の食器洗いを考えただけでも、外食のメリットはよくおわかりでしょう。それなら、「ハレ」の日に限っては、純粋に食事だけを満喫できる外食の方がずっとリーズナブルではないでしょうか。
さて、「ハレ」の日の代表格といえば、お正月のおせち料理ですね。家族や親戚などが集まり、その家庭に伝わる料理を囲むという風習はすばらしいものですが、おせち作りにはかなりの時間と手間がかかります。
そこで最近は、完成品をお取り寄せする家庭が多くなり、少人数用のミニおせちから、老舗の料亭が手がける豪華なお重まで、さまざまなおせちが販売されているそうです。要は、料理にかける時間を余裕の時間にするわけです。このように、誰もが負担を感じない「プチずぼら食生活」こそが理想といえるのではないでしょうか。
保坂隆
保坂サイコオンコロジー・クリニック院長