毎年、誕生月には届く「ねんきん定期便」。将来の年金受給額を知ることができるため、老後のライフプランを考える際に役立つものです。しかし、そこに記載されている「年金受給額」にあまりに頼りすぎると、思わぬ事態に陥るケースもあるようです。詳しくみていきましょう。
順風満帆の老後のはずが…月収65万円・59歳の勝ち組サラリーマン、〈まさかの年金減額〉に悲鳴「なにかの間違いでは」
年金額が昨年の見込額より「少なくなる」要因
「ねんきん定期便」に関して注意しておきたいこととして、漏れや誤りの可能性以外にも、「年金額が昨年の見込み額より少なくなっている」という事態が起こる場合があります。
もちろん、単なる「早とちり」の可能性もありますが、見込み額が減額した原因として、まず考えられるのが、「加入状況の変化」です。50歳以上の「ねんきん定期便」に記されているのは、「これまでの年金加入期間」「最近の月別状況」を鑑みて、60歳に到達する前月まで継続して保険料を納める、と仮定した場合の見込み額となります。
厚生年金に加入している場合、転職や諸事情により給与が減額したことで「標準報酬月額」が下がったり、ボーナスの支給がなかったりと、加入状況が変わることで、見込み額が減ることは十分に考えられます。
もうひとつの原因が「年金給付水準の変化」です。「ねんきん定期便」に表示されている年金額の計算には、作成した年月日の属する年度の「年金給付水準」が適用されます。現在、日本の公的年金は、そのときの社会情勢(保険料を支払う被保険者数や平均寿命の変動)に応じて、年金の給付水準を自動的に調整する「マクロ経済スライド」という仕組みが導入されています。つまり、年金の給付水準は毎年異なり、給付水準が前年度より引き下げられた場合、年金額(見込額)も昨年より少なくなってしまいます。
また、年金給付については、もうひとつ大きな懸念があります。厚生労働省が7月3日に発表した「財政検証」によると、今後、マクロ経済スライドは終了し、2040年度には、所得代替率※1が61.2%から56.3%に低下すると予測されています。これは現在、現役世代の生活水準に対して、約61%が保障されている公的年金が、将来的に約56%の水準まで低下することを意味しています。
※1 年金額がそのときの現役世代の手取りと比較し、どのくらいの割合かを示す指標。将来の年金額が十分かどうかを判断するための給付水準を表す基準となる。
たとえば、現在、59歳で平均標準報酬額(≒平均月収+賞与)が上限の65万円、いわゆる「勝ち組」サラリーマンがいたとしましょう。この男性が60歳の定年で現役を引退した際、65歳から受け取れる年金額は、国民年金とあわせて月21万円程度となります。現在、厚生年金受給者の平均年金額は月14万円といわれているなかで、十分な受給額といえます。
しかしながら、すでに年金を受給している人に対しても、年金の「目減り」は適用されます。すなわち、2040年、80歳となった勝ち組サラリーマンの年金額は、実質19万円程度になることになります。将来21万円程度の年金がもらえる……そう思って老後の準備をしていたのに、80歳となった2040年、「あれ、思ったより少ないぞ!」と慌てることになってしまいます。
今後、年金給付水準は大きく目減りすることが確実視されていますが、物価も今以上に上昇する可能性があります。長寿化が進み、20年ほど見込んでいた老後が、30年、40年と長くなることも考えられます。社会情勢も刻一刻と変化し、想定外の事態に直面することもあり得ます。今は「勝ち組」でも、晩年には、生活苦に陥る可能性もあるわけです。そうなると、先ほどの男性も「こんなに減るなんて、なにかの間違いでは……」と悲鳴を上げることになりそうです。
人の寿命とは、誰にもわからないものです。長生きを「リスク」と思わなくて済むよう、盤石なプランを練っておくことが必須です。そのためにも、「ねんきん定期便」の記載状況をしっかり把握し、年金の最新情報を積極的にキャッチし、老後に備えておきましょう。