定年後に向けて保険の見直しを行う人は少なくありません。定年後も働き続ける人が増えているものの、現役時代と同等の収入をキープできるケースばかりではないでしょう。そのようななか、「保険料が安くなるから」といった理由だけで見直しを行うと、後々後悔することになるかもしれません。本記事ではAさんの事例とともに、定年前に保険を見直す際の注意点について、CFPの伊藤貴徳氏が解説します。
年金月13万円75歳・再雇用の夫、担ぎ込まれた病院のベッドで定年直前に加入の「死亡保険」を大後悔したワケ 【CFPが解説】
終身保険と定期保険
どちらも生命保険の一種ですが、仕組みに違いがあります。
終身保険
保険料は積立型(解約すると一定額返ってくる) で保障は一生涯。しかし、保険料は比較的高い。
定期保険
保険料は掛け捨て型(解約しても返ってこない)で保障は一定期間で終了するが、保険料は比較的安い。
一生涯保障の終身保険と満期のある定期保険。どちらにも特徴があり、これが正しいという絶対的な正解はありません。 Aさんの場合、今後の保険料負担を考え定期保険に見直しをした結果、あと5年で保険契約が終了してしまうという状態となってしまいました。
その後、75歳で終身保険への見直しを考えましたが、75歳時点での保険料はこれまでの年齢と比べると高いものとなってしまったのです。
保険の見直しの際に考えておくべきポイント
もちろん、満期の短い保険が悪い、というわけではありません。
たとえば、「向こう10年間は定期保険で保険料を抑えながら保障を得て、そのあいだに働きながら貯蓄をすることで保険期間が満了したあとは保険に頼らなくても大丈夫といった状態にしておく」という考え方のもとであれば上記の保険は有効でしょう。
しかし「とりあえずキリよく10年間」や、「なんとなく80歳まで」といった保険の掛け方には注意が必要です。保険を掛ける理由や根拠をイメージしておくことが大切です。
見直しも大事だが…既存の保険を活用する方法も
Aさんは65歳のときに終身保険を解約し、定期保険へ見直しをしていますが、終身保険を減額することで対応できたかもしれません。 減額とは、保障額を減らすことで保険料を下げる方法です。
仮に終身保険の保障1,500万円を3分の1に減らすことで、保険料も3分の1となれば、定期保険とほぼ同じ保険料で一生涯の保障が続いた可能性もあります(減額の対応や保険料の下がる割合は、保険会社により変わるため確認が必要です)。
保険を新しくする際は見直しが一般的ですが、既存の保険を残しつつ有効活用する方法もあります。専門家の意見も聞きながらいろいろな選択肢を探すことも必要です。
保険会社によって契約内容は異なる
Aさんの定期保険の満期は80歳まででしたが、保険会社によっては80歳以降の満期を設定できる会社もあります。保障額に対する保険料や保険期間、付加できる特約などは保険会社によってさまざまなため、比較検討することが大切です。
Aさんは悩んだ結果、満期の長い会社の定期保険に見直しを検討することにしました。現在は退院をしたてで加入が難しい状態のため、時間をおいて満期の長い定期保険への検討を行うとのことです。
「保険を見直したときは、80歳の自分が想像できなかったけど、いざ時期が近づいてわかりました。先のことをもう少し考えて見直せばよかったと思っています」 そうAさんはそう話し、手術痕の傷口をさすりながら仕事へと向かって行きました。
もう1点注意すべきことも。死亡の保障であれば問題ない可能性も高いですが、直近で入院歴や手術歴、医師によってなんらかの診断を受けている場合、加入前の審査で保障になんらかの条件がついたり、希望の保障をつけられない可能性もあるため、注意が必要です。保険に加入するときには、加入する理由と根拠を明確に。加入の前には保障内容の希望がいつでも通るわけではないことを知っておきましょう。
伊藤貴徳
伊藤FPオフィス
代表