老後への不安…退職金を増やしたい

いまから1年ほど前に定年を迎えたAさん(60歳)は、今後の退職金の運用について悩んでいました。 

退職金の額はおよそ1,500万円で、なにかうまく活用はできないかと考えていましたが、これまで運用の経験はなく、なにから手をつけたらよいかわからない日々を過ごしていました。 

そんなある日、銀行で紹介を受けた「新NISA」という制度に興味を持ちます。 テレビでもよく取り上げられているし、なにより国が推奨している投資制度なら安心感があると思い、Aさんは詳しい話を聞くことにしました。 

銀行員のアドバイスもあって安心…新NISAを始めてみよう

ひと通りの説明を受けたのち、Aさんは銀行の担当者の助言どおり、退職金1,500万円のうちまず240万円を新NISAに充てることにしました。投資信託を自分で選び、投資をスタートさせます。 

銀行からは「ご一緒にいかがですか?」と新NISAとは別の金融商品の案内もありましたが、とりあえず新NISAだけを始めることに。初めての投資ということもあり、少し様子を見てからすべての退職金を本格的に運用していこうと思ったのです。 

投資は元本保証ではないという点が気になりながらも、預金よりも効率的に増やせるかもしれないという期待感のほうが上回っていました。 

順調だった投資に降りかかる、突然の「過去最大の下落」

新NISAで運用を初めて数ヵ月が経ちました。Aさんの選んだ投資信託は順調に推移し、まずまずの評価益を出していました。 

「数ヵ月でこんなに利益が出ているのか。これは選んだ商品がよかったな」 毎日の評価益を確認するのが日課となっていたAさんでしたが、突然悲劇が襲います。 

今年の7月から8月にかけて価格の下落が始まったのでした。 ニュースでは連日株式相場の下落が続き、「過去最大の下落」とまで報道されることに。世界的な株安となったのです。 

預けた金額を割り込むかもしれない……。そんなAさんの予感は的中しました。 

Aさんの投資信託は日に日に評価益が下がり、ついに預けた元本を割れ、評価損の状態に。さらに損失が進む現状に耐えられなくなり、ついに売却をして損失を確定することにしたのです。 

しかしその直後のことです。数日で価格は上昇を続け、結果としてAさんは直近の底値で売却をしてしまうこととなってしまいました。 国をあげて推進している制度を活用して投資を行ったはずなのに、銀行員が適切な助言をしてくれたはずなのに……。一体なぜAさんは損失を出してしまったのでしょうか。