大手小売業に勤務しているAさんは50歳。残業や休日出勤もいとわず会社のために頑張ってきましたが、数年前から気力・体力ともに衰えを感じることが多くなりました。会社からの評価も下がった気がします。

人生の半ばを過ぎ仕事だけだった人生を鑑みると、このまま60歳の定年まで勤め続けることへの疑問が浮かんできました。

そうした中、45歳以上の従業員を対象に会社から「希望退職者の募集について」という案内がありました。定年を待たずに自分から手を挙げて早期に退職すると、通常の退職金に大きな上乗せがあるというのです。

Aさんは心身ともに疲れていたこともあり、早期退職をしてのんびりしたいという思いが強くなりました。安くはない保険料を何十年も納めてきたのだから、老後の年金もそれなりにもらえるだろうという計算も働きます。

さて、「なんとかなるさ」と会社を早期退職して半年が経ちました。物価上昇は止まらず、老後は2千万円ではなく4千万円必要だとの声も。老後がとても心配になったAさんは自分の年金が気になり始めました。

友人から教えてもらった厚生労働省の公的年金シミュレーターで年金額を試算してみたところ、思った以上に少ない金額に「会社を辞めなければよかった......」と頭を抱えています。

退職金が優遇される早期退職

賃金上昇圧力やインフレ進行によるコスト増などにより、固定費の削減を目的とした人員削減が進んでいます。

人員削減の方法には新規採用の見送り、パートやアルバイトの雇止め、派遣契約の終了などがありますが、Aさんが応じた早期・希望退職募集もその一つ。

東京商工リサーチによると、2024年5月16日までに早期・希望退職募集が判明した上場企業は27社で、対象となる人数は4,474人(前年同時期1,314人)。すでに2023年(3,161人)の年間実績を超えており、今年は年間1万人を超えるペースで推移しています。

一般に、早期・希望退職募集が行われる場合は退職金が上乗せされます。

厚生労働省「令和5年就労条件総合調査の概況」によると、退職給付制度がある勤続 20 年以上かつ 45 歳以上の退職者がいた企業について、令和4年1年間における退職給付額を退職事由別にみてみると、「早期優遇」が最も高くなっています。

(参考:厚生労働省「令和5年就労条件総合調査の概況」)
【退職者1人平均退職給付額】(勤続 20 年以上かつ 45 歳以上の退職者) (参考:厚生労働省「令和5年就労条件総合調査の概況」)

Aさんの退職金は平均を上回り約2,500万円。貯金は1,000万円ほどあります。節約しつつアーリーリタイア生活を送ろうと考えていました。ネットで目にしたサイドFIREという生き方にも憧れます。

しかし、定期的な収入がない生活というのは思った以上に不安。物価の上昇は止まらず、何を買うにも躊躇(ちゅうちょ)してしまいます。年金がもらえるのは15年も先。時折、「早く辞めすぎたか」という思いが頭をよぎります。