「壮年期」つまり45歳〜65歳前後は、これまでの努力が実り「人生の最盛期」と思われる時期です。しかし職場でも家庭でも大きなストレスを抱えやすく、体調も不安定になりがちです。その結果、精神面で危機的な状況を迎えるリスクもあります。本記事では、『健康の分かれ道 死ねない時代に老いる』(KADOKAWA)の著者で医師・小説家の久坂部羊氏が、壮年期におけるストレスについて解説します。
45歳〜65歳前後の〈壮年期〉にはあらゆる困難が押し寄せる…人生の破滅を招きかねない“精神の危機”を乗り越えるため「若いときからやっておくべきこと」【現役医師が解説】
困難な壮年期を乗り切るには「精神面でのタフさ」が必要
また家庭においても、大きな危機がひそんでいます。子どもが思春期になり、不安定さから反抗したり、非行に走ったりして親を心配させ、また進路や異性問題のストレスを親にぶつけてきたりします。当然、いずれも簡単には解決できません。
さらに自分の老親に介護問題が発生するのもこの時期です。脳卒中(脳梗塞や脳出血)による半身麻痺、寝たきり、認知症の発症、パーキンソン病やALS(筋萎縮性側索硬化症)、脊髄小脳変性症などの難病、さらにはがんや心臓病など、心配と困難な対応にはきりがありません。
愛情たっぷりに子育てをしてきた母親の場合は、子どもの自立(就職、結婚など)により、「空の巣症候群」と呼ばれる精神的危機に陥る場合があります。子育てに愛情は必要ですが、子育てが生き甲斐になってしまうと、本来、喜ぶべき子どもの自立で自分を見失ってしまう危険性があるということです。
このように壮年期には精神面で危機的な状況が山積みですが、困難に直面することで、浮ついた気持ちが抑えられ、真摯に現実対応をすることで、危機が乗り越えられる場合もあります。そうなればふたたび自己信頼感が高まり、精神面での安定が得られることにつながります。
そうなるためには、まず地に足の着いた思考、冷静な判断、協力的な家族関係、ガス抜きのできる友人などが必要となります。いずれも若いときから培っておかなければ手に入りません。
名探偵フィリップ・マーロウの有名なセリフ、「タフでなければ生きていけない、優しくなければ生きていく資格がない」では、後半がもてはやされることが多いようですが、実際に重要なのは前半でしょう。この困難な壮年期を乗りきるためには、やはり精神面でのタフさが必要になります。
久坂部 羊
小説家・医師