「〜したら」の恐怖

新しいクライアントのシェイと会ったのは、サンフランシスコの繁華街、シェイの仕事場から数ブロックほど離れた人目につかない中庭でした。彼は35歳で、身長は180センチメートル越え(あとで聞いたところによると、サンフランシスコのユダヤ人恋愛市場ではこれはかなりのアドバンテージであるとのこと)。

シェイについてほとんど知らないまま、私はミーティングに臨みました。彼は自信に満ちており魅力的に見えました。コーヒーを買うためにシェイがレジの順番を待っているあいだ、私は席について、なぜ彼が私に助けを求めて連絡をよこしたのか推測していました。誰と付き合うか決められないタイプかしら? 実りのない関係を終わらせたいとか? それとも、失恋の痛手から立ち直りたいのかもしれない。

シェイが戻ってきて、カフェラテを手渡してくれました。「ええと、最初から話したほうがいいでしょうね」と彼は話し始めました。「私はいままで女性と付き合ったことがないんです。いや、高校のときに一人だけ彼女っぽい人はいたかな。けれどそれ以来ずっとご無沙汰で」私は彼の恋愛経験の少なさに驚きました。「その理由に心当たりは?」「いつまでたっても心の準備ができないんです」とシェイ。

「まずは、仕事をきっちりやりたかった。それですごくいい仕事に就いたけど、次は妻を養うのに十分なお金を稼がなくちゃ、って。で、まあお金も稼げるようになったんですが、今度は自分の心の準備を先に整えたくて、セラピーに通い始めました。いまは転職したばかりなので、新しい仕事に慣れるまではまだ付き合えないって思ってしまうんです」

シェイはゆくゆくは結婚して家族をもちたいけれども、そのための準備がまだ整っていないと思っていました。彼が私に連絡をしてきた理由は、両親からプロに助けを求めるようプレッシャーをかけられたから、というだけでした。

あなたはこの話を聞いて、「なるほど。彼なら大丈夫。準備ができたら恋愛を始められる」と思うかもしれません。けれども、もっと詳しく話を聞いてみると、シェイはすでに準備万端であることがわかりました。大企業の弁護士を10年務め、経済的に安定しています。自分のことをよく知っており、人間的にも成熟している。趣味はギターを弾くこと(彼いわく「下手だけど」)。友人もおり、家族との仲もいたって良好でした。

私はこれまで、シェイのようなクライアントをたくさん見てきました。すごくモテそうなのに、積極的に恋愛をしないタイプ。私はこの手の人たちを尻込み型と呼んでいます。かれらが私に相談に来る理由は、恋愛をすべきだと感じるけれど、なかなか行動に移せないからです。デートに出かけない理由を尋ねられると、「〜したら」の言い訳を繰り出すのです。

「あと5キロ痩せたら……」「仕事で昇進したら……」「大学院を卒業したら……」「出会い用のプロフィール写真を撮り直したら……」「仕事が一段落ついたら……」

誰もが何かしら改善したいと思うものです。しかし、そのような向上心が言い訳になることもあります。たしかに、恋愛を始めるのは怖いもの。恐怖心が尻込み型を怖じ気づかせます。拒絶される恐怖、失敗する恐怖、完璧でない恐怖。かれらが恋愛を避けるのも無理ありません。挑戦しなければ失敗することもないのですから。

けれど、100パーセント準備が整うのを待っている人は、自分が見逃しているものを過小評価しています。