待つのはなぜ「間違い」なのか

どんなことでも――おそらく恋愛はとくに――準備が完璧に整うことはありません。完全に自己実現できたと思えるまで待ちたい気持ちはわかります。せっかく理想の相手に出会えたのに、時期尚早で拒否されるなんてたまりません。尻込み型の人は、いつか、朝目覚めると「準備ができた」と思える日がくると思っています。けれどそんなことは現実には起こり得ません。人生とはそのようなものではないからです。

気後れすることは誰にでもあります。大半の人はプレッシャーのかかる状況で不安を感じます。多くの人が、人には見せたくない一面をもっています。それでも、そのような人たちが、デートに繰り出し、キスをし、恋に落ち、別れを経験し、また恋に落ち、結婚するのです。つまり、どれだけ自分が完璧でなくても、とにかく外に飛び出して恋愛を始めなくてはならないのです。みんな、完璧ではないのです。あなたが生涯をともにする人でさえも。

それに、昇進や5キロの減量など、あなたが思い描く「完璧な状態」を達成し、恋愛関係を始めたとして、その愛は条件付きなのでしょうか? あなたの恋人は、あなたが無職になったり、金銭的なピンチに陥ったり、チェダーチーズをむさぼり食うのがやめられなくなったり、10キロ太ったりすると、あなたを捨ててしまうのでしょうか?

恋愛するのを待ってばかりいると、あなたが思っている以上のものを逃します。経済学者がよく使う言葉を借りると、意志決定における機会費用(Opportunity Cost)というもので、ある選択肢を選んだときに払う代償を指します。

たとえば、選択肢A と選択肢B という、相反する選択肢のどちらかを選ばなければならないとき、選択肢B を選んだ場合、選択肢A をあきらめることにより生じる代償が機会費用です。この概念を理解するために、簡単な例を考えてみましょう。

あなたは、大学院に進学すること(選択肢A )と現在の仕事を続けること(選択肢B )のどちらかを決めるとします。二年間の授業料と生活費は、20万ドル。そこで、大学院進学にかかる費用はどれくらいかと尋ねられれば、あなたは「20万ドル」と答えますね?

それは間違いです。機会費用を含めていないからです。大学院に進学するとフルタイムで働き続けることができないので、大学院進学にかかる総費用には、あきらめざるを得ない現在の給与額も含まれます。つまり、大学院進学の総費用は、授業料と生活費の20万ドルに、進学せずに働き続けた場合に二年間で稼ぐ金額がプラスされるのです。「20万ドル」プラス「二年分の年俸」というわけです。

あるいは、友人のサマンサがバーで行う誕生日パーティーと、職場の同僚、デビッドの引っ越しパーティーのどちらに行くかを決めるとしましょう。サマンサのパーティーに行く場合の費用には、そこで過ごす時間だけでなく、バーで使うお金や、翌日の二日酔いの気分の悪さも含まれます。デビッドや他の同僚と仲良くなるチャンスを逃すことも、機会費用になります。

恋愛に当てはめて考えると、尻込み型は、「もっと自分に自信をもててから」「もっとお金ができてから」と、そのときが来るのを待ちます。けれどもそれは、始めないことの機会費用を軽視していることにほかなりません。