人々が恋愛でより良い決断をできるように

私は長らく、デートや恋愛関係、セックスの研究をしていました。ハーバード大学では学部生のポルノ視聴癖を研究し、「Porn to Be Wild(ワイルドになるポルノ)」と題する論文を書きました(余談ですが、ハーバードの学生は大量にポルノを見ています)。

イラショナル・ラボを運営する数年前の、グーグルでの初仕事は、グーグル広告のアカウントを、バングブロスやプレイポーイなどのポルノサイト、グッド・バイブレーションズといったアダルトグッズを販売するクライアントに振り分けること。当チームは別名「ポルノ部」と呼ばれていました。

恋愛関係への興味は、子ども時代にまでさかのぼります。楽しく愛情たっぷりの家庭で育ちましたが、17歳のとき、両親が突然離婚したのです。「末永く幸せに暮らしました」幻想ははじけとび、幸せな結婚が長続きするのを当然だとは思えなくなりました。

グーグルで過ごした当時、マッチングアプリができたばかりで、独り身の私はマッチング候補をスワイプして選り分けるのに膨大な時間を投じていました。まわりの友人たちも同じように苦労していました。

初代iPod(「1000曲の音楽をポケットに」)の時代は過ぎ去り、私たちは、どこまでもつながるスマートフォンで1000人の恋人候補をポケットに詰め込める時代を生きていたのです。

近所に住むボビーだかブリンダだかと結婚するのではなく、オンラインにいる何千人もの独身者の中から選ぶことができる時代です。そのような中、私は「トークス・アット・グーグル:現代のロマンス」というサイドプロジェクトを立ち上げました。

現代のデートや恋愛関係の大変さについて探究する、インタビューシリーズです。マッチングアプリ、デジタル時代のコミュニケーション、一夫一婦制、共感、幸せな結婚の秘訣などについて、世界的に著名な専門家にインタビューを行いました。ものの数時間のうちに何千人ものグーグル社員が、インタビューの更新を通知するメーリングリストに登録しました。インタビューがオンラインで公開されるやいなや、何百万もの視聴者がユーチューブに殺到しました。

苦労しているのは私や友人たちだけではないのが明らかでした。ある晩、見知らぬ人が私のもとへやってきて、「きみのポリアモリー[訳注:当事者全員が合意のうえで、同時に複数の人と交際する恋愛関係]についてのインタビューを見たよ。そんな関係性がうまくいくなんて、まったく思いもしなかった。世界が一変したよ」と言いました。

その瞬間、私は自分の仕事の影響力の大きさを実感しました。これこそ、天職だと思ったのです。とはいえ、非科学的なアドバイスをばらまく恋愛の導師のような存在にはなりたくありませんでした。

そうではなく、「グーグルで磨いた行動科学の知見をいかして、人々が恋愛でより良い決断をできるよう手伝えないだろうか?」と考えたのです。