暗号資産は国が発行する法定通貨とは違い、中央管理者(各国の中央銀行)なしで取引ができます。そのため、国や金融機関が麻痺してしまうような有事の際には、とくに注目が高まる傾向にあります。ここでは松嶋真倫氏の著書『暗号資産をやさしく教えてくれる本』(あさ出版)より、金融危機の度に脚光を浴びてきた暗号資産の歴史について解説します。
有事の金ならぬ「有事の暗号資産」?ビットコインが“大きな金融危機”に強い理由【マネックス証券アナリストが解説】 (※写真はイメージです/PIXTA)

暗号資産は有事の際に脚光を浴びる

暗号資産は、国が発行する法定通貨とは違い、中央管理者(各国の中央銀行。日本でいえば日本銀行)なしで取引ができます。そのため、国や金融機関が麻痺してしまうような有事の際には、暗号資産に注目が集まり、一部では需要が高まります。

 

暗号資産の代表格であるビットコインは、2008年の誕生から現在(2023年10月)まで、リーマン・ショック、キプロス危機、コロナ禍をきっかけに3度、世界的な注目を集めたことがあります。いずれも、大きな金融危機に陥った時です。それぞれご紹介しましょう。

 

●最初の注目:リーマン・ショックを受けてビットコイン誕生

ビットコインが誕生したのは、2008年10月。その前月には、サブプライムローンというアメリカの低所得者向けの住宅ローンの影響を受けて、アメリカの投資銀行であるリーマン・ブラザーズが経営破綻しました。いわゆるリーマン・ショックです。

 

リーマン・ショックによる金融危機は、世界規模で連鎖的に広がり、世界中で金融機関への信頼が大きく揺らぎました。ちょうどその折、金融機関をはじめとする第三者を介さずとも個人同士で自由に取引できる電子通貨システム、ビットコインの「ホワイトペーパー」(暗号資産を発行するにあたり、その内容をまとめた提案書)が公開され、2009年1月、世界初のビットコインが発行されました。

 

●2度目の注目:キプロス危機でビットコインの価値が高まる

発行後しばらく、日の目を見ることがなかったビットコインですが、2013年3月に転機が訪れます。「キプロス危機」の発生です(「キプロス・ショック」とも呼ばれる)。

 

欧州の実質的なタックスヘイブンの1つ、トルコの南海上にある小さな島国キプロスで、ギリシャ危機のあおりを食って金融危機が起こり、国中が大混乱に陥りました。国や金融機関に対する信用はがた落ち。さらに、預金封鎖や預金に対して課税する預金税が実施されることになったため、国外の投資家たちは、キプロスから他の国へ資産を逃がす手段としてビットコインを購入します。

 

これにより、ビットコインの価値が一気に高まり、1BTC=数千円だったものが、1BTC=10万円を超えて売買されるまで高騰し、世界的に大きな注目を集めたのです。

 

●3度目の注目:コロナ禍でビットコインの価格が爆上がり

2020年3月、金融市場に衝撃が走りました。新型コロナウイルスという未知の感染症が拡大したことにより、あらゆる金融資産の価格が暴落したのです。中でも原油価格の下落は著しく、翌4月には、原油の先物価格が史上初のマイナスに転じました。

 

ビットコインの価格も一時、50%近く暴落しました。しかし、その後はいち早く下げ幅を取り戻し、2020年末にかけては史上最高値を更新することになりました。

 

ビットコインは、新型コロナウイルスという「有事」をきっかけに、その存在感を増していったのです。経済危機の状況下では一般的に、逃避資産として「金」が買われる傾向にあります。新型コロナウイルスの感染拡大時も金は逃避資産として人気を集め、2020年8月には、1オンス=2,000ドルを突破して史上最高値を更新しました。

 

ビットコインもまた、金と同じく「有事に強い資産」として認知度が高まってきているといえます。

 

このように、暗号資産は金融危機が起きたタイミングで大きな注目を集めてきました。日本で暮らしていると、お金を引き出せなかったり、お金を移動できなかったりすることは滅多にないでしょう。しかし、金融危機によって国や金融機関が支える金融システムへの信用が揺らいだ時には、個人同士で自由にお金を移動できる暗号資産の魅力が高まる傾向にあります。

 

これから先も10年に1度は世界中に影響が及ぶ金融危機が起こるかもしれません。その時にはビットコインを筆頭に暗号資産が国や企業に管理されない資産として買われるチャンスにもなり得ると覚えておきましょう。