定年退職金の使い道として、住宅ローンの繰上げ返済をあげる人は少なくありません。しかし、繰上げ返済はその後の生活に支障をきたす恐れがあるため、あまりおすすめとは言えないようです。収入が減る定年退職時に住宅ローンを返済することは賢明な判断に思えますが、いったいなにが危険なのでしょうか。株式会社FAMORE代表取締役の武田拓也FPが、具体的な事例を交えて解説します。
悔やんでいます…定年後、退職金2,000万円で住宅ローンを「全額繰上返済」した63歳男性の後悔【FPの助言】
住宅ローンの「繰上返済」には要注意
人生でもっとも高い買い物といわれる住宅。マイホームを手に入れることは、多くの社会人にとって1つの目標でしょう。
金融広報中央委員会「家計の金融行動に関する世論調査」をみると、2人以上世帯の持家率は全国平均で68.9%となっています(令和5年、全国平均)。年齢別にみると、20歳代では持家率が29.2%と3割を切っていますが、年齢が上がるにつれて持家率も上昇し、60歳代以上では約8割となっています。
とはいえ、マイホームは高額であるがゆえに現金一括払いで購入する世帯は少なく、ほとんどの世帯が住宅ローンを組みます。
ローンを組むということは一定期間借金をすることになるわけですが、実際に総務省の「家計調査報告」によると、2人以上世帯に占める負債保有世帯の割合は39.3%と、約4割にのぼります。このうち、負債現在高の約9割が「住宅・土地のための負債」です。
また、三井住友トラストが自宅購入者3,947人を対象に行ったアンケートによると、「自宅購入時のローン利用の有無」については「住宅ローン利用中」「住宅ローンで購入したが返済完了した」世帯の比率が全体で78.6%、特に30代では高く84.0%となっており、30代で住居を購入している人の多くはローンを利用していることがわかります。
住宅ローンは一般的に30年〜35年で組み、月々の返済を抑えます。そのため、60歳の定年を迎えるまでにローンを完済できる人は少ないのが現状です。そのため、多くの人は定年退職後も住宅ローンを払い続けるか、もしくは後述の事例のように、退職金を使って完済する人も少なくありません。
「繰上返済」には向き・不向きがある
定年退職後の生活を見据えて、住宅ローンの「繰上返済」を検討している人も多いのではないでしょうか。長年働いて得た資金をどのように活用するかは大きな決断です。
繰上返済は、利息の節約や返済期間の短縮といったメリットがある一方、手元資金が減少し、老後なにかあった場合の対応が難しくなるというデメリットがあります。
そのため、預貯金や資産が豊富にある人は繰上返済をしても問題ありませんが、手元資金が心許ない人は繰上返済をせず月々の返済を継続したほうがよい場合もあります。
このように、住宅ローンの繰上返済は「向いている人」と「向いていない人」がいるのです。