定年退職金の使い道として、住宅ローンの繰上げ返済をあげる人は少なくありません。しかし、繰上げ返済はその後の生活に支障をきたす恐れがあるため、あまりおすすめとは言えないようです。収入が減る定年退職時に住宅ローンを返済することは賢明な判断に思えますが、いったいなにが危険なのでしょうか。株式会社FAMORE代表取締役の武田拓也FPが、具体的な事例を交えて解説します。
悔やんでいます…定年後、退職金2,000万円で住宅ローンを「全額繰上返済」した63歳男性の後悔【FPの助言】
住宅ローンを「退職金で一括返済」した男性の後悔
元会社員の誠さん(仮名・63歳)は、現役時代に購入した一戸建てに妻と2人で暮らしています。なお、子どもは2人いますが、すでに独立しそれぞれに家庭をもっています。
誠さんは3年前、退職金2,000万円と貯金の一部を使って、住宅ローンを全額繰上げ返済しました。
夫婦ともに借金がストレスに感じるタイプであったため、長年負担になっていたローンが終わりスッキリ。「これでようやく借金がゼロだ! 男としてやるべきことはやったぞ!」と、誠さんはしばらくのあいだ達成感に包まれていました。
定年退職のタイミングで、会社から再雇用の打診もありましたが、年収が半分以下と大きく下がってしまうことから、悩んだ末に退職を選択。定年後は働かず、年金生活を送っています。誠さんに趣味はなく、お金を使う機会はたまの外食と、妻と年に1度行く国内旅行くらいのものです。
「借金もなくなったし、贅沢や無駄遣いにさえ気をつけていれば老後も大丈夫だろう」と安易に考えていた誠さんですが、この3年のあいだに親の介護や自宅のリフォームなどでまとまった支出があり、貯金が500万円を切ってしまいました。
「こんなことになるなら、手元にキャッシュを残しておけばよかった……」
老後への不安に耐えきれなくなった誠さんが友人に相談したところ、お金の専門家であるファイナンシャルプランナーを紹介され、老後の資金計画を立てようと筆者のFP事務所へ相談にやってきました。
誠さんは、「正直、退職金の使い道を悔やんでいます……このままでは老後の生活が成り立たないかもしれません。なんとかなりませんか?」と切羽詰まっている様子です。
散財はしていないが、手元資金が寂しい…誠さんに解決策はある?
誠さんは真面目に仕事をされてきて、退職後もとくに散財することなく過ごしていました。しかし、住宅ローンを繰上返済したうえ、予期していなかった介護やリフォーム費用が発生し、手元資金が少なくなってしまったようです。
誠さんは貯金の少なさから将来への不安感がつきまとい、日常生活を平穏に過ごせない状態になっています。
誠さんが今後安心して生活を送るためには、少しでも手元資金を増やしておきたいところです。しかし、年金暮らしをしている誠さんにとって手元資金を増やすことは容易ではありません。
では、流行りの株式投資などをすればよいかというと、それもまた難しいところ。これまで投資経験のない誠さんがいきなり株式投資を始めたからといって儲かる保証はなく、「〇〇ショック」などと相場が崩れてしまえば大損する可能性もあります。