高齢化が進む中、ますます身近なリスクとなりつつある「認知症」。その数は予備軍の患者も含めると1,000万人を軽く超えます。しかし、認知症といっても症状はひとそれぞれ。決して診断されたらアウトというわけではない、と言います。鎌田實氏と和田秀樹氏の共著『医者の話を鵜吞みにするな』(ワック)より、認知症の誤解と生活について、詳しく見ていきましょう。
診断されたら人生終わり?「すぐボケる・暴れる・徘徊する」マイナスイメージの裏側にある「認知症の真実」【鎌田實×和田秀樹】
認知症と診断されてから「ボケ」るまで
鎌田 でも多くの人は、物忘れが始まったらすぐにボケてしまうと思っている。実際にはそんな状態になるまでにどれくらいの時間があるんですか?
和田 だいたい10年程度の余裕はあるんです。だんだん物忘れがひどくなり、迷子になったりするので、外に出なくなる。やがて話が通じなくなっていく。でもそこまでには10年。軽症の間はそれまでと同じように仕事も生活もできるのです。
鎌田 僕の友人に認知症当事者会の共同代表をやっているSさんという人がいます。50歳で若年性アルツハイマー病を診断されて、いま70歳。絵が好きで、ボランティアと美術館通いをしているうちに自分でも描き出して、それをTシャツにデザインしてもらったりしています。
この前、電話をかけてきて「肝臓を休ませたいと思うんだけど、休肝日は連続で2日間続けないといけないのか?」と聞くから、「好きなら、たくさんじゃなければ毎日でもいいけども、「今日はいいかな」と思う日ぐらいは休肝日にしたら」と話したら、「そうか、それもあるよね」と、うれしそうに笑っていました。
和田 アルツハイマーになったから終わり、というわけじゃないんですよね。
鎌田 彼は当事者会の共同代表として講演にも呼ばれるようになり、それが大きな張り合いになっています。彼はいまも施設で一人暮らしですが、自由にランチやジムに行っています。
例えばボケたくないと思っている人は、これもダメ、あれもダメと細かなことを気にする人が多いけど、そうなってみたらそうなったで、やっぱり新しい世界が広がります。もちろん、残酷な現実はありますが、でも認知症になると、見える世界が変わってくるような気がしますね。
年をとることって、全般的にそうで、足腰が弱って車椅子になったら終わりだと思っていたら、いざ車椅子を乗って好きに動いていると、それはそれなりに「この世界も悪くないな」って思うようになるんだと思います。
和田 見えない世界を恐れて生きるよりは、そうなっちゃったときに出現する新しい世界を楽しむのが賢い老い方なんだということですね。状況の変化に応じて楽しさを見つけられるかどうかが、大事になってくるんですよね。
鎌田 實
医師
和田 秀樹
精神科医