歯周病、口臭のリスクも高まる

唾液には、自浄作用、緩衝作用、再石灰化作用、抗菌作用、湿潤作用、消化作用など6つもの働きがあります。このうち、虫歯の発生に影響するのが自浄作用、緩衝作用、再石灰化作用です。

自浄作用は口の中の食べカスなどを洗い流す作用で、虫歯だけでなく、歯周病、口臭の予防にも寄与しています。また、通常中性に保たれていた口腔内は食後、酸性に傾きます。中性のときはpH7だった酸性度がpH5より下回ると酸性になり、歯の表面からリンやカルシウムが溶け出し、虫歯になりやすい状態となります。このpHを中性に保ってくれるのが、唾液の緩衝作用です。

そして、歯の表面のエナメル質から、リンやカルシウムなどで構成される「ハイドロキシアパタイト」が溶け出すことを脱灰といいます。この状態は初期虫歯といって回復が見込める状態で、唾液に含まれるハイドロキシアパタイトが再び歯を修復することで脱灰から守ってくれます。これを唾液の再石灰化作用といいます。「ハイドロキシアパタイト」は歯磨き粉の成分としても知られていますが、唾液も同じ働きをするというわけです。

こうした唾液の自浄作用、緩衝作用、再石灰化作用によって虫歯から守られていたのが、唾液の減少によってその働きも弱まってしまうというわけです。虫歯だけでなく、自浄作用で守られていた歯周病や口臭のリスクも高まります。

嚥下にも大きな影響が…

唾液の減少による口腔内への影響は虫歯以外にもあります。唾液にはIgAなどの免疫物質や酵素が10種類以上含まれており、口から体内に入り込もうとする菌やウイルスから守ってくれます。これが唾液の抗菌作用です。口腔内の雑菌や外部から口の中に入ってくる病原菌を防いでくれるほか、たとえば生物を食べても簡単に菌に感染したりしないことも唾液の抗菌作用が影響しています。加齢によって唾液が減少するということは、それだけ病気にも感染しやすくなるこということです。

そして、唾液の減少は食べ物を食べることにも影響します。口の中に入った食べ物は歯や口輪筋、頬筋などを使って粉砕され、唾液と混ざって飲み込みやすい状態の食塊(しょっかい)が形成されます。これが咀嚼です。そこから咽頭、食道、胃へと送り込まれる、この一連の動きを嚥下といいます。

咀嚼の際、食べ物を噛みやすく、飲み込みやすくするのが唾液の湿潤作用です。しかし、唾液が減少すると、この食塊が適度な大きさにならないまま飲み込んでしまったり、むせやすくなったりします。すると食塊が誤って気管に入ってしまう誤嚥を起こすことがあり、それによって口腔内の細菌が肺に入ってしまったことで起こる誤嚥性肺炎のリスクも高くなります。

このほか、口腔内の粘膜を潤し、守ってくれるのも湿潤作用によるものです。唾液の減少によって口腔内の粘膜が乾いた状態になり、固いものなどを食べると口の中が傷ついてしまうこともあります。

「口は第一の消化器官」といわれるように、口の中で消化の第一段階が行われます。咀嚼に続いて、唾液に含まれるアミラーゼという消化酵素が食べ物に含まれるでんぷん質を糖に分解し、消化されやすい状態にします。これが唾液の消化作用です。唾液の減少によって、消化力も低下してしまうというわけです。