令和元年に金融庁が告げた「老後2,000万円問題」などもあり、日本のお年寄りは貯金に励む傾向にあります。ですが、お金を使わなかったために遺産問題などのトラブルが起きたり、身体が動かなくなってから「もっとぜいたくをしとけばよかった」といった後悔にかられたりするケースも少なくないといいます。今回は和田秀樹氏による著書『和田秀樹の老い方上手』(ワック)から一部抜粋して、高齢者が積極的にお金を使うべき理由について解説します。
お金を使えば自分も周囲も幸せになる
お金というものは、持っているだけではだめで、それより使うことに価値があるんです。たとえば、百貨店でブランド品を買いまくったら、フロア主任まで出てきて店員みんなで下へも置かないおもてなしをしてくれるし、子供や孫たちに金をバラまいたら、一族みんなで「おじいちゃん、おばあちゃん」って寄ってきてくれるわけですよ。
資本主義の世の中は金を持っている人間ほど偉いって勘違いされているけれど、お客様は神様というくらいで、金を使う人間のほうがよほど偉いんですよ。要するに金を使うかどうかです。死ぬまで金を貯め続けるなんて、これほどバカなことはない。
莫大な遺産があると何が起こるか、もう一つ教えましょう。子供たちが喧嘩を始めるんですよ。子供たちには奥さんがいるし、女の子なら夫がいるから話がややこしくなる。お父さんの介護をしたのは私だとか、うちはわざわざ近くに引っ越してあれこれ面倒をみていたとか、家業を継いだのは俺だとか、それぞれ主張して財産の取り合いになる。
財産さえなければ、そんなことは起こらない。だから、金なんて残さないのがいちばんです。金は使うものだというふうにマインドリセットして、みんながお金を使うようになればいいんですよ。
何よりもいいのは、そうすれば景気が良くなることです。いま、個人金融資産は日本中で2,000兆円あるんですけど、その6割以上は60歳以上が持っているんです。みんなでその金を使うようになったら、いっぺんで景気が良くなります。
でも日本のお年寄りはみんなお金を使おうとしないし、企業のほうも、どうせ金を使わないだろうと思うから、お年寄り向けの車やパソコンを開発しようとか、お年寄り向けの家を作ろうとか考えません。せいぜいバリアフリーの家を建てるくらいでしょう。
だから年をとったらお金を使いましょう。というのは、死ぬ間際に残るのは思い出しかないからです。あの時、ああすればよかったとか、こうすべきだったとか、後から悔やんでも、ある年齢以上になったらできなくなることもありますからね。
夫婦で世界一周の船の旅に出るとか、退職金でヴィンテージ・ギターやポルシェを買うとか、若い時にあこがれたものを手に入れればいいんです。会社員でポルシェを乗りまわしたりしていると何を言われるかわからないけれど、もう辞めたんですから、何か言われる筋合いはありません。
お金は持っているだけでは価値がない。使ってこそ価値があり、幸せになれるものです。年老いてから貯めこんでいても何にもなりません。使っているからこそ毎日が楽しい。金を貯めるのは不幸のもと。そう自らに言い聞かせて、ぜひ幸せな老後をお過ごしいただきたいものです。
和田 秀樹
精神科医