受診者にとっては、健康であることを確認するための「健康診断」。一方で、健康診断をする側にとっては「顧客を増やすチャンス」という側面があります。本記事では、『健康の分かれ道 死ねない時代に老いる』(KADOKAWA)の著者である久坂部羊氏が、健康診断というシステムの裏側にある事情を解説します。
健康診断は「健康な人」を「病気」にいざなうシステム? 患者の健康を祈りつつも、いなくなってはお金に困る医療の矛盾【現役医師が解説】
健康診断に潜む「ダブルのバイアス」とは
健康診断の判定をする医者からすれば、いちばん避けなければならないのは見落としです。たとえば胸部X線撮影で、肺に気になる影があったとき、たぶん大丈夫と思っても、万一のことを考えると、精密検査を勧めることになります。
本当は異常なしと判定して、受診者を安心させてあげたいと思うのですが、万一、初期のがんで、見落としたため治療が遅れたら、医療ミスとして糾弾される可能性もあります。そう考えると、やはり「要精密検査」と判定するほうに傾きます。
さらに精密検査の設備もあるところは、「要精密検査」と判定すれば、患者が増えるという側面もあります。つまり、ダブルのバイアスがかかっているのです。
その結果をもらった受診者は、健康であることを確かめるために行った健康診断で、「要精密検査」と判定され、ショックを受けます。コメントには「たぶん大丈夫だと思うけど」とは書かれません。そんなことを書くと、それで安心して検査に行かない人が出てきて、手遅れになるとまた責任問題になるからです。
というわけで、安心のために受けた健康診断で、ハラハラドキドキさせられ、病院に行って長い待ち時間にイライラし、すぐに検査してもらえず、診察を受けて、予約を取って、検査を受けて、また改めて結果を聞きに行くという時間的、経済的、心理的負担をこうむるという側面が、健康診断にはあります。
それでも先にも述べたように、健康診断で早めの治療が功を奏することもあることを忘れてはなりません。健康診断を受けるべきか否か。それはこのような実態を知った上で決めるのがいいでしょう。
ちなみに私は受けていません。
久坂部 羊
小説家・医師