50代が迎えるメンタルの危機とは?

WHO(世界保健機関)の「健康」の定義はこうなります。「健康とは、病気ではないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態であることをいいます」(公益社団法人日本WHO協会・訳)。

わたしもこの定義には同感します。検査の結果が正常というのはただ単にフィジカルが満たされたというだけで、それによってメンタルとソーシャルが満たされなくなったら健康とは言えないからです。

そもそも肉体的な健康にしても、たった一つの臓器だけでなくさまざまな角度から見なければいけないのです。「こっちには良くてもあっちには悪い」ということがしばしば起こります。

フィジカル、メンタル、ソーシャルの関係も同じです。まして数値で計れないメンタルやソーシャルは主観的なものです。本人が幸せだとか楽しいと思えばそれでいいことになります。

たとえば交友関係にしても、ごく親しい人間とだけつき合って満足している人もいるし、人間関係が狭いことを「友人がいない」とか「人望がない」と気にする人もいます。これもバカバカしい話で、「わたしはいまがいちばん気楽で伸び伸びできる」と満足していればそれでいいはずです。

つまり自分が健康かどうかは主観的であっていいし、自分が決めればいいことなのです。医者や周囲の言説に振り回されて不安になるのがいちばんバカバカしいことになります。

逆に言えば、たとえ数値が正常でも、気分の落ち込みが長く続いたり、人と会うのが億劫になって外出の機会がめっきり少なくなっていることに気がついたら、メンタルやソーシャルの健康を疑ってみるべきでしょう。

まして50代というのは、男性でも女性でもいわゆる「更年期」を迎える時期になります。簡単に説明すれば、男性は男性ホルモン、女性は女性ホルモンが減ることで中性化し、老年期に入ります。

「更年期障害」という言葉は聞いたことがあると思います。ホルモンバランスが変わることでさまざまな障害が出てくる症状のことですが、それ自体は個人差があって誰にでも更年期障害が起こるわけではありませんが、ホルモンバランスの変化、つまり更年期そのものは誰にでも訪れます。

加えて、40代からは前頭葉の老化が始まります。それがもたらすのは意欲の低下や感情コントロールの低下です。無気力になって、怒りを制御できなくなったり不機嫌を抱え込むようになります。

そしてもうひとつ、「幸せホルモン」とも呼ばれるセロトニンという神経伝達物質が減ってきます。セロトニンは脳内で分泌されることで幸福感や心の安定感を生み出しますから、メンタルの健康にとって重要なホルモンということになります。

つまり更年期というのは、ただ単に男らしさ、女らしさが失われて中性化するだけでなく、メンタルな面での大きな転機、はっきり言って危機を迎える時期でもあるのです。

その結果、どうなるでしょうか。令和3年の年齢階級別自殺者数をみると、もっとも多いのが50代で、わずかの差で40代が続きます。さらには「うつ病・躁うつ病」の年齢別患者数を見ていくと(こちらは2020年10月のデータ)男性はやはり50代がいちばん多く、女性は40代になっています。

いずれにして40代50代の男女にうつ病が多いのです。ただしこのうつ病患者の多さには社会的・環境的要因も含まれているはずです。

男性の場合でしたら職場で重い責任を負わされたり人間関係のプレッシャーなどがあり、女性の場合も子どもが自立したことで母親の役割が終わって寂しさが生まれたり親の介護が始まることなども考えられます。働いている女性には当然、男性と同じプレッシャーがかかってきます。