身体の調子がよければ「健康」と言えるのでしょうか? 検査結果の正常値といった単にフィジカルが満たされたということだけでなく、メンタルとソーシャルが満たされていると本人自身が感じられなければ「健康」とは言えないのです。本記事では、『50歳からの脳老化を防ぐ 脱マンネリ思考』(マガジンハウス)の著者で医師の和田秀樹氏が、50代が迎える<メンタルの危機>について解説します。
50代が陥る「メンタルの危機」に要注意…「この不調は年齢のせい」と自分をごまかしてはいけないワケ【有名医師が解説】
メンタルを改善する直接的な治療法がある
ではどうすればいいのか。ものすごく単純な答えを出せば、ホルモンバランスの変化が、男性は男性ホルモン(テストステロン)の減少、女性は女性ホルモン(エストロゲン)の減少によって起こるならそれを補充すればいいことになります。
男性ホルモンは加齢だけでなくストレスによっても減少することがわかっています。50代の男性が仕事や職場で強いストレスを受けるとそれだけで男性ホルモンは減少し、それによってストレス耐性が弱まればさらに男性ホルモンが減っていくという悪循環を起こします。
「何となくやる気が出ない」とか「疲れが取れない」といった自覚を「齢のせいだろう」とごまかし続けてしまうと、ほんとうのうつ病にもなりかねないのです。
ホルモン補充療法は欧米では抵抗なく受け入れられていますが、日本ではまだ、あまり一般的ではありません。これはわたしの感覚ですが、どうも日本人というのは病気でもないのにマイナス面を物理的な方法で補うという処置に抵抗を感じるような気がします。
たとえば美容整形とかカツラをつけるといったことでも、そういうのは「反則だ」という意識があるようです。「あるがままを受け入れよう」という発想です。
でも髪の毛の薄いことに悩んでいる人がカツラをつけてしまえば、悩みは消えるはずです。ところが身近な人にはすぐにバレてしまいます。すると恥ずかしいのです。「そこまでやるのか」「かえって不自然だ」といった陰口が聞こえてくるからです。
でもホルモン補充療法というのは、うつ病のような心の病にも非常に効果的な方法だということがわかっています。実際、一般的なうつ病の治療では効果が見られない人にホルモン補充療法を行うと目に見えて改善する例が多いのです。
現在の日本では、主に泌尿器科や男性更年期外来でこの治療法を受けることができますが、対応できる医療機関はまだ限られていますから下調べが必要です。「いざとなったら」という気持ちで頭に留め置いてください。
和田 秀樹
精神科医