本は未知の世界への扉です

私自身が無類の本好きということもありますが、中高年、とくにひとり暮らしの人には、大いに読書をしてほしいと思っています。読書は視野を広げ、感受性をはぐくみ、人間性を磨いてくれますから、人生の豊かな実りの時期にあたり、自分自身の一生を振り返るうえで、大いに役立つと考えるからです。

すでに読書好きの人ならおわかりでしょうが、読書はまさに、生活習慣のひとつです。これまで、あまり本を読んでこなかったという人にとっては、いきなり読書好きにはなれと言われても……と、ハードルが高いように感じるかもしれません。そういう人も、試しに読んでみようか、くらいの軽い気持ちで本を読んでみてほしいのです。

精神科医として、また、希代のエッセイストとして膨大な著書を持つ故・斎藤茂太さんは「できるだけたくさんの本を読み、美しいものに触れ、思いやりを持って人に接する。当たり前のことを言っていると思うでしょうが、そういうことの積み重ねが、本当に人を美しくするんです」という味わい深い言葉を残しています。

じつは、読書好きになるのはそれほど難しい話ではありません。はじめに手にする本は、自分が興味のある分野や関心のあるテーマでいいのです。

ラジオのパーソナリティーが話していた本、新聞の書評で紹介されていた本、知り合いが面白いと話していた本、テレビで見たドラマの原作、大ヒット映画のノベライズ、好きなタレントのエッセイなどでも、気楽に読書デビューができそうですね。つまらなければ、別のジャンルやほかの作家の作品に移ればいいだけです。

また、最初のうちは、あれこれ読んでみましょう。そのうちに、自分の感性に触れる本にきっと出合えます。それをきっかけに同じ著者のものを読んだり、あるいは、似たジャンルの本をどんどん読み広げていくようにすればいいだけです。まずは一日10分から始めて、食わず嫌いから脱却しましょう。

あれこれ本を読んでいくうちに、本に対する感度が磨かれていき、書店の店頭でパラパラとページをめくるだけで、「この本はよさそう」「面白そうだ」とサッと判断できるようになる人もいます。

私の話で恐縮ですが。50歳を過ぎてから、仏教、とくに真言宗の開祖・空海の世界に強く心引かれ、小遣いのほとんどをそうした本代に使うようになっています。

「これは!」と思う本に出合ったら、迷わずその場で買ってしまうのもおすすめで、人との出会いに縁があるように、本との出合いも、ある種の縁が働いていると考えるからです。

書店の棚は、本の回転が速く、次の機会に買おうと思っていると、次回はもう店頭にないケースも少なくありません。インターネットからでも本は買えますが、実物との出合いは、やはり大事です。書店をひとまわりするだけで、何となく今という時代を感じることもできたりします。

じつは、次々と買い込んだ本のすべてをすぐに読むことなんてできません。でも、こうした本を好きなだけ読める日がいずれやってくるのだと思うと、この先の毎日が待ち遠しくなるのではないでしょうか。「積ん読」は、そんな人生の楽しみも教えてくれます。

もし、「面白いかどうかわからないのに、高い本を買うのはどうかな」と考えるなら、図書館で借りて読んでみてはいかがでしょう。

近くにあれば散歩がてらに、ちょっと遠くても自転車やバスなどを利用すれば、公共図書館があるはず。これなら交通費だけで本に出合えます。

書店を回って面白そうな本を見つけたらメモしておき、本そのものは図書館で借りましょう。新刊本では置いていないケースもあるので、リクエストして待つというのも楽しみいっぱいな習慣でしょう。

保坂 隆

保坂サイコオンコロジー・クリニック院長