仕事を引退して自由な時間を手に入れたシニアの中には、暇を持て余している方もいるかもしれません。新しい趣味を始めたいけれど、体力面や経済面でなかなか踏み出せない方もいると思います。それでも何かしら趣味を持ったほうがよいのでしょうか? 今回は、小川仁志氏の著書『60歳からの哲学 いつまでも楽しく生きるための教養』(彩図社)より、イギリスの哲学者バートランド・ラッセル(1872~1970)が著書『幸福論』の中で「幸福になる方法として趣味を持つことが大切である」と語った理由について解説します。
趣味の目的は常に「幸福」であることを忘れない
人生のどの段階においても、趣味が大事だということには変わりありません。ラッセルの説く理屈は、若い人にも当てはまることです。でも、老年期を迎えようとしている人、そして今まさに老年期にある人にとってはより重要なことだといえるのではないでしょうか。なぜなら、老年期はおのずと仕事よりも趣味の比重が大きくなるからです。
生涯現役とはいえ、仕事にかける時間やエネルギーの割合は、一般に少なくなっていくはずです。それよりも、健康や人生のバランスを考えることが多くなると思います。そうすると、趣味に費やす時間やエネルギーは必然的に増えていきます。仕事を引退すればなおさらでしょう。
そんな時、いきなり趣味を持つというのではリスクが高いといえます。仕事を引退する少し前から準備しておくのに越したことはありません。それになんでも早く始めた方が、楽なのは間違いないでしょう。
ラッセルの理論に基づけば、その趣味も多ければ多いほどいいわけです。一つのことに集中するのもいいですが、なんらかの理由でその趣味が継続できなくなるリスクも考慮する必要があります。趣味は人生の一部ですから、人生のほかの要素と同じく、リスクヘッジが求められます。
リスクといえば、ラッセルはもう一つ大事なことをいっています。趣味に熱中するのは大事なことだけれども、同時に中庸を心がけなければならないというのです。なんでもそうですが、熱中しすぎてバランスを崩してしまっては元も子もありません。だから彼は、趣味は枠の中に収まらなければならないと釘をさします。
具体的には、四つの枠を挙げています。一つ目は健康、二つ目は人並みの能力があること、三つ目は必需品が買えるだけの収入、四つ目は妻子への義務といった最も基本的な社会的な義務です。たしかに、趣味に熱中しすぎて健康を損なったり、本来の能力を発揮できなくなったり、お金を使いすぎたり、家族に迷惑をかけたりするようなことがあってはいけません。
あくまで幸福になるための手段ですから、趣味のせいで不幸になってしまっては笑うに笑えません。常に目的は幸福であることを忘れないように楽しむのが一番だと思います。老年期を幸福に過ごすためにも、中庸を意識しつつ、どんどん趣味を広げていきましょう!
小川仁志
山口大学国際総合科学部教授
哲学者