テレビが「心に悪い考え方」を刷り込ませる

2つ目は、「決めつけ」「単純化したものの考え方」が植えつけられることです。

さすがにイスラエルとパレスチナの問題では、「どちらがいい」「どちらが悪い」という決めつけはだいぶ減りましたが、ロシアとウクライナの戦争が始まった際には、「ロシア=悪、ウクライナ=正義」というような論調一色となっていました。

国際情勢の場合、そんなに単純に割り切れるものではないし、歴史的な背景もあるでしょう。コロナ禍では、テレビ報道がコロナ一色に染まり、「コロナは危険で怖いものだ」という決めつけが植えつけられ、「少しでも感染者が出てはいけない」という論調が目立ちました。

私もテレビに出ていた当時は、「コメントをなるべく短く」と言われ、いろいろな可能性を提示しようと思ってもそうすることを許されませんでした。これも「心に悪い考え方」を植えつける背景となっています。

3つ目に「完全主義」があります。勉強ができるだけではダメで、性格や運動能力も大切だとか、スポーツ選手にも人格の良さを求めたり、完全な人間を求めるというのがテレビマスコミの姿勢です。

完全を目指せば、満足することはそれだけ少なくなりますし、不完全感が強くなることも多くなるでしょう。高齢になるほど「完全」を目指すことは難しくなるという現実もあります。「満点というのは、現実的には無理で、合格点であればそれでいい」という考え方を、高齢になるほど身につけてほしいのですが、テレビはそれを妨げるものだと言っていいでしょう。

4つ目は、「不安を煽る」ことです。コロナを必要以上に怖いものと思わせることで、多くの高齢者が外出を怖がり、足腰や脳が弱ることにつながりました。「犬が人間を嚙んでもニュースにならないが、人間が犬を嚙むとニュースになる」という風に、テレビというのは珍しいものを取り上げるメディアです。テレビで報じられることは例外なのだというスタンスで視聴しないと、常に不安にさらされ、余計なストレスを抱えたり、心を病みかねません。うつ病を予防する生活として、テレビを遠ざける意味は大きいと思います。

もちろん、娯楽のためにテレビを見ること自体は悪いことではありません。面白いものを見て笑うことは免疫力の向上にもいい効果があります。しかし、テレビは若者に迎合したものばかりが目立つので、高齢者が笑えることは少ないように思います。多少、お金がかかってもDVDや有料の配信などを使ってレベルの高い漫才や落語に触れることをおすすめします。

和田 秀樹
精神科医
ヒデキ・ワダ・インスティテュート 代表