うつ病は遺伝する、という説を耳にしたことがある人も多いのではないでしょうか。しかし、精神科医の和田秀樹氏いわく、うつ病は遺伝しやすいのではなく、「うつ病の親に育てられたから、うつ病になりやすい性格が引き継がれる」という考え方もあるようです。うつ病を発症しやすい性格とはどういうものなのか、和田秀樹氏の著書『65歳からおとずれる 老人性うつの壁』(KADOKAWA)より、詳しく見ていきましょう。
〈独居老人〉より〈家族と暮らす老人〉のほうが自殺率が高いという衝撃事実…一人の寂しさ以上に「うつ病」を誘発する、恐るべき要因【和田秀樹氏が解説】
うつ病を「遺伝」させる大きな要因
「几帳面」さゆえルールにしばられる
確かに几帳面な人のほうが、ずぼらな人より、細かいことを気にするのでストレスを感じやすいでしょう。しかし、几帳面さそのものがいけないということではなく、几帳面さゆえ、自分のルールにしばられたり、そうでないと気が済まないという性格が、うつ病を呼ぶと私は考えています。
例えば、「仕事が終わっていないのに家に帰ると、そうした自分が許せない」とか、「部屋に一つでもホコリが見つかると、拭かずにはいられない」というような状態です。
こういう人は、体調が悪くなったり、配置転換で仕事がなかなか覚えられないなどという状況の際に、「体調が悪いのだから仕方がない」とか、「仕事に慣れてくれば何とかなるだろう」とは考えられず、自分を責め、落ち込んでしまうのです。高齢者の場合、いろいろな能力が落ちてくるので、以前は几帳面にできていたことができなくなることが増えてきます。そういう自分が許せないと、うつになってしまうのでしょう。
「秩序愛」が落ち込みを生むことも
秩序愛というのは、日本の場合、上下関係や役割分担などに表れると思います。
時代が変わっているのに、年下の人からタメ口で話しかけられたり、成果主義で年下の人が上司になったりすると、そのことを受け入れられずにイライラしたり、落ち込んだりしてしまうのです。あるいは最近では、男性は仕事、女性は家庭などという秩序にこだわっていると、性差別者として断罪され、落ち込むことになります。
高齢になると、それまで会社や社会で一目置かれていたような人が、ただのおじいさんやおばあさんになったりするので、やはりこれまでの秩序が崩れます。親は子どもの面倒を見るものだという秩序にこだわっていると、だんだん身体が衰えてきて、子どもに面倒を見てもらうことに罪悪感を覚えたりもします。
「他者配慮性」がうつ病の誘因に
他者配慮性というのは、自分ががまんしてまで、人の意向を優先させるということです。このように人に気を遣う人は、日本にはまだまだ多いでしょう。
例えば、マスクとは、病気を人にうつさないためのもので、自分への感染を予防するためのものではありません。だからコロナ禍以前は風邪をひいていたり、インフルエンザにかかっている人がするものでした。しかしコロナ禍以降、熱射病のリスクが高まるにもかかわらず、感染していなくてもマスクをつけることが当たり前のようになったのは、「人に不安を与えないため」という、日本人の他者配慮性の表れだと思います。常日頃から他人に気を遣ってばかりいて、自分を押し殺していると、当然ストレスがたまります。うつ病になりやすいのも、もっともなことといえます。
日本の場合、高齢者のせいで税金が高いとか、統計的な根拠はないにもかかわらず高齢者が運転すると歩行者に危険だとか、何かにつけて、高齢者が増えることで、一般の人が迷惑するかのような言説が多いので、他者配慮性が強い高齢の人にとっては、自分が迷惑な存在だと思いがちです。
実際、一人暮らしの高齢者より、家族と同居する高齢者のほうが、自殺が多いことが知られています。一人の寂しさ以上に、家族に迷惑をかけていると思い込む罪悪感のほうが、うつ病を誘発し、自殺のリスクを高めるのでしょう。
さて、この「几帳面」「秩序愛」「他者配慮性」という性格の人が親になると、子どもにも几帳面さを求めたり、目上の人を敬うという秩序を大事にするようにとか、わがままはいけないというような形でしつけをする可能性がとても高くなります。メランコリー親和型性格というのは、そういう理由で、親から子に引き継がれやすいものです。
これがうつ病を遺伝させる大きな要因だと私は信じています。
和田 秀樹
精神科医
ヒデキ・ワダ・インスティテュート 代表