税制はとても複雑で、確定拠出年金をはじめとする企業年金、退職金、またiDeCoなどを受給する際、一括で受け取るか、分割して受け取るか、といったちょっとした受け取り方法の違いだけでも、掛かる税金に大きく差が出ることもめずらしくありません。そこで今回はFPの小川洋平氏が、新卒から65歳まで勤務し退職することになった男性の事例をもとに、知っておかないと損する税制のポイントを解説します。
65歳会社員、定年まで必死に貯めた年金資産も「たった1つの選択ミス」で400万円以上大損の危機…「知らなかったらヤバかった」【FPの助言】
退職金と同時に一括で受け取ると、こんなに負担が軽くなる
髙橋さんがFPから受けたアドバイスは、確定拠出年金を分割ではなく、退職金と同時に一括で請求するというものでした。確定拠出年金の資産は下記のように退職所得として計算されます。
退職所得計算式:(退職金の受給額ー退職所得控除額)×1/2
退職所得控除は、勤続年数もしくは確定拠出年金の加入期間が長いほど大きくなり、勤続43年(端数切り上げ)の高橋さんが退職金を受け取る場合、2,410万円までを非課税で受け取ることができます。そして、高橋さんの場合は退職金が800万円、確定拠出年金の年金資産が2,000万円ですので、退職所得は下記のように計算されます。
髙橋さんのケースの計算式:
(退職金800万円+企業型確定拠出年金2,000万円-退職所得控除2410万円)×1/2×税率
この場合、退職所得は195万円となり、退職金と確定拠出年金の資産に掛かる税金は①所得税約10万円、②住民税約19.5万円と、合計約29.5万円となります。
つまり、確定拠出年金を10年に分割して年金形式で受け取った場合と、一括で受け取った場合では約445.5万円の差が出るということになります。
FPにこのことを教えられた高橋さんは、確定拠出年金を一括で受け取ることを選び、大きな税金や社会保険料の負担をあわや免れることができたのでした。
どう受け取るとお得になるかは「ケースバイケース」
今回ご紹介した高橋さんの場合、会社の勤続年数が長かったのに対し、支給される退職金はそれほど高額ではなく、退職金の非課税枠に余裕がありました。そして、会社で導入されていた確定拠出年金を上手く活用し2,000万円もの資産ができていたため、このように大きな差が出る結果になりました。
年金制度や税金、社会保険料の仕組みは大変複雑です。今回は直前で一括受け取りを選ぶことができたおかげで大損せずに済んだのですが、反対に一括ではなくすべて分割で受け取った方がお得なケース、半分を一括で受け取り、もう半分を分割で受け取った方がお得なケースと、その人の状況、受け取り方により様々です。
確定拠出年金のみでなくその他の企業年金、退職金を受け取る際、そしてiDeCoを受給する際にも今回ご紹介したような事例もあり得ますので、疑問に思ったら確定拠出年金に強いFPや税理士に相談されてみるとよいでしょう。
小川 洋平
FP相談ねっと