「あなたは何歳まで働く?」現役を引退する年齢で、ここまで変わる生涯賃金・生涯年金額

ゆ:60歳の定年が近くなると、定年後の再雇用制度がある会社では、定年退職するか? 継続雇用を希望するか? いずれかの選択肢があります。「40年間近く真面目に勤務して、老後資金としてコツコツ貯めてきた貯蓄もあるし、少しこの辺で一休みしたいなあ」と退職を選択する人もいるでしょう。

お:日本のシニア層は真面目に仕事を頑張ってきた人が多い印象だよね。

ゆ:しかし、長~い老後には、想定以上の出費、たとえば介護費や医療費などが発生するかもしれません。また、子どもや孫に教育資金や住宅取得資金を援助したいという考えが芽生えるかもしれません。あれやこれやとまとまった出費が重なり、何とかなると思っていた老後資金が足りなくなる事態は十分に起こり得ます。

お:60歳で定年退職し再就職をしなかった場合、65歳で年金受給が始まるまで、労働所得は0です。政府調査によると、日本の65歳の平均年収が529万円です。これをもとに労働所得を計算すると、5年間で2,645万円分が、65歳まで働いた場合と比べて0円になります。

ゆ:もし、株投資や不動産等の資産運用による不労所得がなければ、生活費はひたすら貯蓄から切り崩していくことになります。

お:5年間現役を延長して増える年金額は前述のとおり月1万3,000円です。100歳まで生きると仮定すると、下記の計算により、生涯もらえる年金額に546万円もの差が生じます。

1万3,000円円×12ヵ月×35年間=546万円

→生涯年金額が546万円アップ

ワ:長生きは本来喜ばしいことのはずなのに、老後費用を考えるととっても厳しいものなんだね。

ゆ:「定年後の老後資金は年金だけでは足りない!」というのは今や常識となり、多くの人が「身体の動く限り、働けるだけ働こう」と考えるようになりました。

隆さんも定年後にあと5年間働いて、少しでも資金を増やしておきたいという考えでしたね。

お:政府調査によると、「まだ仕事を辞めていない」と回答したシニア世代はご覧のとおりです。

[図表2]「まだ仕事を辞めていない」と回答した現役シニアの年齢分布

お:「仕事を辞めていない」と回答した約7.6%の人が80歳以上です。

ゆ:なかには、働く理由が収入以外の人もいます。「仕事にやりがいを感じているから生涯働きたい」「社会と繋がりをもっていたい」「ボケ防止のため」などです。

お:一方で、体力的に限界を感じつつも、生活のために仕事を辞められないという層がいることに、しっかり目を向けなくてはなりません。

ワ:隆さんは60歳以降もフルタイムで働くの?

ゆ:再雇用制度では、従業員をいったん退職扱いにして退職金を支払った後、新しい雇用契約を交わすのが一般的な流れです。このタイミングで従業員の雇用形態・労働条件は押し並べて変更されます。

お:政府調査によると、労働者の雇用形態は60歳を境に非正規雇用、つまり嘱託・契約社員、パート・アルバイトの比率が上昇します。ご覧のとおりです。

非正規雇用者の割合

男性 55〜59歳10.5%

↓34.8%アップ

男性 60〜64歳45.3%

お:また、賃金は7〜8割前後に減ります。業種により差はあります。さらに、業務内容について全体の44%の企業が「定年前とまったく同じ仕事」、38%の企業が「定年前と同じ仕事であるが、責任の重さが軽くなる」と回答しています。

ワ:隆さんも部長を退いて責任は軽くなったものの、お給料はかつての約8.6割まで減って、仕事量は部長時代と同じみたいだったね。現役時代同様に忙しいのにお給料は減ってしむなんて…なんだか損した気にもなるけど、定年を機に60歳で転職するのも大変だよね。どっちが人気なんだろう。

ゆ:どっちが合っているかは、まさに人それぞれですよね。隆さんのように、かつての部下が上司になり、人間関係がぎくしゃくしてしまったというケースもあります。昔のくせが抜けず上司風を吹かせているようでは、あっという間に周囲に煙たがられるでしょう。

ワ:気をつけたいね。

ゆ:仕事の内容も、隆さんは部長時代と変わらないことに当初不満を感じていましたが(管理業務はなくなったと思いますが)、「その逆もまたつらい」という声を聞きます。高度な専門性やスキルがなければ、書類整理などの誰でもできる作業や雑用担当になり、社内会議にも次第に呼ばれなくなります。

自分が必要とされていないと感じ、仕事がつまらなくなれば、生産性が下がり、ますます評価されないという悪循環に陥ることもあるでしょう。

ワ:隆さんみたいに自分の役割を見つけることが大切だね!