家族が認知症になったらどのように接したらいいのでしょうか? 理学療法士の川畑智氏による著書『ボケ、のち晴れ 認知症の人とうまいこと生きるコツ』(アスコム)では、伝え方や接し方がまとめられています。この回では、言ってはいけない言葉とその言い換えの言葉をご紹介しましょう。
「あえて失敗させる」ことでフリーズ回避
また、危険のない小さな失敗だったら、「あえて失敗させる」というのも手です。
たとえば、認知症の方の中には、フォーク1本と箸1本でご飯を食べようとする人もいます。当然、うまく食べられません。
そんなときには、「うまく食べられない」という経験をあえてさせてあげてから、箸2本で食べる姿を目の前で見せてあげると、「そうすればいいのか」となります。
中には、靴とサンダルを片方ずつ履いてしまう人もいます。
でも、その場では言いません。
玄関から出たときに指摘するのですが、そのときの言葉は、「間違ってますよ」ではなく「あれ? ○○さん、足が痛いんですか?」です。
「いや痛くないよ」「なんだぁ、足が痛いのかと思いました。片方、サンダルですよ」というやりとりで「あ、本当だ(笑)」という「晴れ」に流れが変わります。
ただ……毎回これをやっていると、家族は大変。先回りして、履いてほしい靴だけを出して失敗を防いだほうが楽ですし、そこに罪悪感は持たないでください。
失敗させたり、先回りしたり。その両方を使い分ければよいと思います。
スピーチロックは、「否定的な言葉」以外にもたくさんあります。
たとえば、つい言ってしまいがちな「ちょっと待ってて」。
言われたほうにすれば、「どれくらい待っていればいいの?」となって、動きがとれなくなってしまうことがあります。
また、「待ってて」には、命令のような強さがあります。結果として、自分から行動しようという意欲を失わせたり、被害妄想につながったりして、症状が悪化してしまうことも。
スピーチロックになりかねない言葉は、できるだけ置き換えていきましょう。
「ちょっと待ってて」ではなく、「〇〇を済ませちゃうから、あと5分くらい待っててもらっていい?」。
5分という数字を手で表しながら、視覚的に覚えやすく伝えます。
こうして、待つ理由と時間を説明し、視覚的な記憶を強化した状態でお願いする形をとることで、安心感と信頼感が生まれます。
川畑 智
理学療法士