家族が認知症になったらどのように接したらいいのでしょうか? 理学療法士の川畑智氏による著書『ボケ、のち晴れ 認知症の人とうまいこと生きるコツ』(アスコム)では、伝え方や接し方がまとめられています。この回では、面会するときの会話のコツをご紹介しましょう。
ハマる「ワンテーマ」の探し方
どうしてもテーマに困ったときは、「戦時中は空襲が怖かった」「ご飯は麦と芋ばかりだった」「終戦後、国民学校の教科書に墨を塗った」「電話・テレビが初めて家に来た」など、感情を揺さぶられた思い出は、記憶に残りがちです。
ファッションや食べ物、音楽や映画、家電などの流行もいいですね。とくに音楽は脳に直接響きます。人生のシーンとともにあった曲はなかなか忘れません。
その際は、「当時はもんぺを穿いていましたよね」「麦ご飯ばかりでしたね」なんて具合に、同世代のように話を合わせるのも手です。
「それ、私は知らないわ」なんて言われてしまうこともありますが、相手の「わかる」「知っている」の波に合わせながら、会話を紡いでいくのがコツです。
少し専門的な話をすると、社会的な役割に変化があった最初の数年間の記憶は残りやすいという研究があります。
まず、子どもとしての役割が強い5歳前後の記憶、学生としての役割が強い15歳から18歳頃の記憶、当時の人が社会人として役割を果たし始める18歳から20歳頃の記憶。
そして時が進み、社会人としての晩年を迎え、自分の両親が亡くなっていく50代の記憶も色濃く残ります。
こうして年代ごとに記憶を虹のように重ねていくことを「キャリアレインボー」と呼び、会話の糸口を探るうえでもヒントになります。
もしも大当たりの「ワンテーマ」を掘り当てたら、その話は何回でも繰り返し使いましょう。いわゆる「鉄板ネタ」にしてしまうのです。
饒舌に語ってくれる話は、ご本人が人生の中で大切にしてきた思い出です。
私たちはつい、「この話、前もしたよな?」と考えてしまいますが、認知症の人は数分前に話した記憶さえ苦手になります。
ただ、あなたと話して「楽しかった」という記憶だけが残ります。同じ話を何度繰り返しても、問題ないのです。
川畑 智
理学療法士