東京23区居住カップルの特殊性

首都圏の新築マンション価格は、バブル期を超えて史上最高値になっているが、ここには東京23区居住者の特殊性も影響している可能性が高い。

日本の企業に根強く残っている年功序列賃金制度のために、個々人で見れば年収は年齢の上昇とともに上がってきている。しかし、その水準は20年前よりも大きく上がっているわけではない。

とはいえ、それもまた平均の話であって、個別の状況を見ていくと違う姿が見えてくる。

2019年の全国家計構造調査では、東京都の2人以上の一般世帯の50〜54歳の世帯年収は1,000万円を超えている。また、2017年の就業構造基本調査の結果では、東京都の共働き世帯年収の最頻値は1,000万円以上1,200万円未満であり、その比率は16%となっている。

そして、年収1,000万円以上の世帯数の絶対数はなんと68万4,800万世帯となっている。

首都圏で供給される新築マンションは平均6,000万円を超える価格となっているが、供給戸数が縮小し年間3万〜4万戸程度であれば、首都圏全体では十分な購入層が存在していることになる。

そして、この状況は首都圏で貧富の差が拡大していることを示唆しており、高騰している新築マンションは特殊な市場になりつつある可能性がある。

東京23区を中心とする首都圏の特殊な状況は、夫婦の学歴構成の特殊性にも表れている。夫婦の学歴の組み合わせを含めた変化については、橘木俊詔、迫田さやか著『夫婦格差社会〜二極化する結婚のかたち〜』(2013年)に詳しいが、筆者が企画設計分析を行った「街の住みここちランキング」の個票データを分析しても、首都圏の特殊性が見て取れる。

住みここちランキングの回答者のうち結婚している33万人のデータを集計してみると、夫婦両方が大卒以上である比率は、全国平均で24%だが、東京都は37.5%と全国でも突出して高い。

この傾向は、年齢が若いほど顕著で、回答者が40歳未満の場合で夫婦両方が大卒以上である比率は東京都が50.8%と半数を超えている。さらに細かく見ていくと、千代田区74.4%、世田谷区71.1%、文京区70.2%と、40歳未満の大卒以上夫婦の比率が極めて高い地域がある。

さらに夫婦両方が大卒以上で、両方が正社員の共働きである比率は千代田区で75.4%、品川区の65.4%など極めて高い。全国で見れば、40歳未満で夫婦両方が大卒である比率は平均31.5%で、15%未満の県も2つある。東京23区の特殊性は際立っている。

本人たちはその特殊な環境と状況に気づかないまま、東京23区を中心とする首都圏中心部の一部の地域は、高学歴で共働きで高年収という特殊な人々が居住している地域となっている。それが首都圏の新築マンション市場の特殊な状況をつくり出しているといえる。

バブル期を超える首都圏の新築マンション価格は、高学歴高年収夫婦のニーズに対応して、市場の調整機能が働いた結果と考えるべきだ。そしてコロナ禍の状況が落ち着いた今、人と会う価値が改めて見直され、アクセスが便利な都心のマンションの人気が高まるかもしれない。

しかも、国際的に見て東京の不動産が割安であることも考えると、今後もさらに価格が上昇する可能性は十分にあるだろう。

宗 健

麗澤大学未来工学研究センター

教授