人生100年時代、定年後の選択肢として、会社員時代の人脈とスキルを活かした「フリーランス」への注目が高まっています。ただし、フリーランスとして成功するには「また会いたいと思われる人」になることが重要です。『ただの人にならない「定年の壁」のこわしかた』(マガジンハウス)より、会社員のうちに身につけておきたい「デキる人の所作」をみていきましょう。著者で公認会計士の田中靖浩氏が解説します。
名刺交換の一瞬でピンとくる…複数の会社を経営する“やり手社長”が「ウマが合いそうだな」と感じる人の共通点
みんなが手を抜くところほど真剣に
T社長ほどではありませんが、私もかなりの数の名刺交換を行ってきました。しかしコロナでその機会は激減し、オンラインの初対面でご挨拶というケースが増えました。
そういえば年賀状の数も激減しましたね。さらには「定年のご挨拶」もハガキではなくメールで頂戴することが増えました。
偶然、大手出版社に勤務していた2人から「退職&独立」のメールが届きました。Aさんからは「私宛て」のメール。Bさんからは「皆さんへ」同時送信のメール。私はそれぞれに返事をしました。
Aさんからは間髪入れずに返信がありました。「とても不安ですが、精一杯がんばります。田中さん、フリーランスの先輩としていろいろ教えてください」と。
残念ながら一斉送信のBさんからは返信がありませんでした。おそらく忙しいだけなのでしょうが、返信を無視するのは相手を軽んじていることになります。少なくとも私はそう感じました。だったら最初からメールを出さなければいいのにと。
サラリーマン時代からBさんはいつも忙しそうで会社の愚痴が多い人でした。Bさんのメールには「仕事をお待ちしています」と書かれていましたが、彼に仕事を頼む気にはなれません。
頼むならAさんです。サラリーマンなら「こなす」仕事だけで評価されるかもしれません。でもフリーランスはそれだけではダメです。しっかり内容を考えて「退職メールを出す」ところまでは誰でもできます。
そこで力を抜いてはいけません。フリーランスの人間関係は「そこから」が真の勝負。自分が退職したという知らせに反応してくれた相手には乾坤一擲(けんこんいってき)の気合いをもって返信すること。
Aさんはそれができていました。Bさんはじめ、退職者のほとんどが一斉メールの文面に力を入れるからこそ、「それとはちがう」場面で気合いを入れることが重要です。
これは正攻法ではなく奇襲です。孫子の兵法に曰く「正を以って合し、奇を以って勝つ」。ふだんは正攻法的に準備しつつ、決戦のときは奇襲を用いて勝ちなさいという教えです。
退職メールではなく「返信」に力を入れるのが奇襲。「みんなが頑張るところはほどほどに、みんなが手を抜くところは真剣に」サラリーマンのうちから練習しておきましょう。さあ、あなたは自分名刺の作成・渡し方、どこに力を入れますか?
田中 靖浩
作家/公認会計士