亭主関白を続けた夫…「介護離婚」は身近にある

もちろん、裕さんは妻に対しても黙っていたわけではありません。「こんなことが許されると思っているのか!」と怒りをぶつけたのですが、妻は「あのとき(倒れたとき)、いっそのこと死んでくれたほうがよかったのに」と返してきたそう。

今回の場合、裕さんは59歳と若く、このまま結婚生活を続けた場合、妻は20~30年もの長きに渡る介護を強いられます。さらに「あんたが寝たきりになる前に別れたかったの!」と続けるので裕さんは唖然としたまま、なにも言い返せず、しょげてしまったのです。

このように裕さんにとって離婚は寝耳に水でした。確かに介護は急に始まりますが、介護離婚は急に起こるわけではありません。

まず裕さんが倒れる前まで妻を経済的に支えるという強い立場でした。しかし、倒れたあとは妻の助けがなければ日常生活を送れないという弱い立場に変わりました。それにもかかわらず裕さんは、相変わらずの亭主関白。「誰のおかげで飯を食えていると思っているんだ」と言わんばかりに横暴な態度をとり続けたので、妻に見捨てられてしまったのです。

もし裕さんが少しでも立場の逆転を察し、健気な態度をとったり、感謝の言葉をかけたりしていれば、妻がここまで思い詰めることもなかったでしょう。

さらに妻が怪しげな行動をとったのは今回が初めてではありません。裕さんの財布からネコババをしたり、実印を持ち出したりするなどの前兆がありました。もし、このような妻の性格を両親に伝えておけば、妻が訪問した際に疑ったでしょう。

また生命保険の代理人を娘さんにしておけば、妻は手続きをできませんでした。そして退職金の手続きも娘さんに任せれば、妻ではなく裕さんの管理する口座に振り込まれたはずです。離婚は別れる、別れないだけでなく、お金の話が伴います。妻が離婚の話をしてきた時点で防衛策を講じることは可能でした。

「夫婦なら助け合うのは当然」という風潮は団塊の世代では今だに根強い印象ですが、妻は夫の身の回りの世話、病院の付き添い、病気の看病するのが当たり前だと思っている男性は危険です。「夫婦だから」という理由だけで夫の介護を押し付けられるなら「夫婦をやめたい」と離婚に踏み切る妻が実在することがおわかりいただけたでしょう。

露木 幸彦
露木行政書士事務所